第34話 忍び寄る危機

 多くの国が大きな犠牲を払って特異種を倒したのに、日本だけ被害が無かった。

そのことが知られると、なぜ日本は第二の特異種を被害なしで倒すことができたのか、世界の注目を浴びることになった。

 日本にはCIAやKGBのような国外での諜報機関がないだけではなく、国内の防諜を担当する防諜組織(カウンターインテリジェンス)の組織もなかった。

 だから日本は外国の諜報活動を防ぐ力が非常に弱く、スパイ天国とも言われてきた。

 最近になって内閣情報調査室にカウンターインテリジェンスセンターができたが、欧米諸国のそれに比べるべくもない小規模な組織である。

 特異種を退けた日本の秘密を探るために各国の諜報機関はエージェントを送り込んだ。

 七音の心得系のユニークスキルと加護はダンジョンギルドによって厳重に秘されているが、七音が第二の特異種を討伐したことは政府の一部には知らされている。

 そして日本の政治家には口が軽い者がいる。

 各国の諜報機関が金や酒、あるいはハニートラップを使って探った結果、帝都大の新進パーティである七音が第二の特異種を倒したことは明るみになった。

 さらに要職にある政治家の一人が、どうも七音には特殊な能力があるらしいとこぼしたことで、七音に注目が集まった。


 都内某所。

 「いやあ、このように多額の献金を頂けるのは大変ありがたい。」

 上機嫌で酒を飲んでいるのは、以前にダンジョン探索の再開をしろとギルドに偉そうに言ってきたエネルギー政策担当の副大臣だ。

 「私どもは先生のリーダーシップを高く評価しておりますので。」

 嫣然と微笑んだ女性は副大臣の杯に酒を注ぐ。

 この女性は某国政府の通商関係の部署の肩書を持つが、正体は諜報機関のエージェントだ。

 外国政府から政治家への献金はもちろん違法だが、いくつかのペーパーカンパニーを経由して偽装したうえで行われている。

 「先生は政府機関に個人的なネットワークを築いておられる。素晴らしいことです。」

 副大臣は政府機関に子飼いの人物を何人か送り込んでいた。

 以前の政府機関は政治家にも対抗していたが、メディアのネガティブキャンペーンで力を削がれ、政治家が官僚の人事を動かすようになり、今では政治家のゴリ押しを止められなくなっている。

 副大臣はただ威張り散らすだけではなく、狡猾な一面も持っている。情報の持つ力を知っていて、政府の秘匿する情報をいくつか入手していた。

 「はっはっは。褒めても何も出ないよ。」

 「私どもは先生と長期にわたる良好な関係を望んでいます。そこで、少し先生のお知恵を借りたいのですが。」

 副大臣は自分の選挙のためだけではなく、子分の政治家の選挙のためにも金を必要としていた。

 個人情報など国家の機密ではないともともと思っていたこともあり、さらなる資金提供の約束と引き換えに、七音のメンバーの住所を漏洩したのだった。


 情報を得た某国の諜報機関は、どのようにして七音の秘密を得るか検討を重ねた。

 七音のメンバーに接近して懐柔して情報を得ることも選択肢に上がったが、今は各 国の諜報機関がしのぎを削って情報を集めている。

 悠長なことをしていては、他国に出し抜かれるリスクがある。

 副大臣が他の国に同じように情報を流す可能性も小さくない。

 そこで、七音のメンバーを攫うことが計画された。

 もちろんリスクは大きいが、日本には強力な防諜機関がないので何とかなるという判断がくだされる。

 そして、T大ダンジョン部の寮に住んでいない者が標的に選ばれた。

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