第33話 特異種とは何か

 第二の特異種は強力な敵だったが、七音の活躍によって討伐され、日本では被害は出なかった。

 だが心得系の強力なスキルや戦国武将の霊?の加護、職人さんたちが作ってくれた武器や防具が無ければ倒せたかどうか分からない。

 第一の特異種よりも第二の特異種のほうが強かったのではないかと思われる。

 実際に、外国では大きな被害が出たようだ。

 北の大国ではベーリング海沿岸の都市が一つ壊滅した。

 襲来した第二の特異種は巨大な海獣の魔物だったという。

 ダンジョン内で発見されたが、なかなか倒すことができずにいるうちに、特異種はダンジョンから出てきて町を襲ったらしい。

 特異種は通常の魔物も率いてダンジョンを出たので被害が大きくなったようだ。

 軍隊はダンジョンの中に入れないことから、特異種がダンジョンから出て来るのを待ち伏せする国もあったようだが、現代兵器はダンジョンの魔物に効果が薄い。

 連隊規模の大きな被害を出してようやく討伐した国もあったようだ。

 ダンジョンの中で何とか特異種を討伐できた国も、多くの探索者の犠牲を出したうえで討伐できたようだ。

 そこで、日本はなぜ被害を出さずに済んだのか、海外から注目されることになる。


 第二の特異種を倒した七音は、「よくやってくれた。ケガはなくてもメンタルな疲れは大きいはずだから、ゆっくり休んでほしい」と津田部長に言われた。

 凛も「皆さん、お疲れ様でした。地の星からは何の警告も受けていませんので、しばらく大丈夫かと」と言った。

そこで七音のメンバーは、しばらくのんびりすることにした。

 宗人は行きつけの喫茶店に千聡を案内した。

 老マスターは暖かく迎えてくれたが、ウェイトレスの子は千聡に驚いた視線を向け、少し冷たい印象だった。

 それでも雑談をしているうちに打ち解けてきて、店を出るときには二人を笑顔で送り出してくれた。

 「良いお店ね。宗人がこんなお店を知ってるとは意外だったわ。」

 「意外は余計だよ。ただ、探索者を怖がったり嫌がったりする人もいるけど、マスターみたいに温かく応援してくれる人がいるのは嬉しくてさ、千聡にも紹介したかったんだ。」

 「その気持ちは分かるわ。また一緒に行きましょう。」

 他のメンバーも買い物に行くなど、それぞれに休日を過ごしていた。

 そんなある日、七音の一年生4人は寮のカフェに集まっていた。

 「へえ、行きつけのお店に案内するなんて宗人もやるわね。透士は行きつけのお店に案内してくれないの?」

 「いや、済まないが俺は行きつけの店とか無いんだ。今度探しておくよ。」

 透士は頭をかいたが、愛を案内すること自体は否定しないんだなと宗人と千聡は思った。

 「何だよ、その生暖かい視線は。」

 抗議する透士にみんなが笑ったところで、宗人は話題を変えた。

 「ところでさ、横浜ダンジョンでは見たこともない二種類の魔物がいたよな。あれは両方とも第二の特異種ってことになるのかな?」

 「そうだな。ギルドで検討してるようだが、両方とも特異種に整理されるらしいぞ。」

 「その噂は私も聞いたわ。最初はキマイラで、今度は二種類の鳥の魔物ってことになるわね。脈絡が無い気もするけど、いったい特異種って何なんだろう?」

 「あの二種類の鳥はどこかで見たような気がしたの。それで調べてみたんだけど、これを見てくれるかしら?」

 千聡がタブレットの画面を三人に見せる。

 それは『滅んだ生き物』というタイトルのページだった。

 「おお、これは。」

 「なるほど、ドードーとモアか。」

 「確かに特徴がよく似てるわね。」

 「そうなのよ。それにロシアで都市を滅ぼした海獣はステラーカイギュウに似ていたらしいわ。」

 「ステラーカイギュウというと、あの優しかったせいで滅んだという生き物か。」

 ステラーカイギュウはベーリング海で海藻を食べて暮らしていた、全長10メートル前後の巨大な哺乳類だ。

 人間が乱獲したため、1768年に絶滅した。

 発見からわずか27年で滅ばされてしまったが、その理由は「優しすぎた」からだと言われている。

 ステラーカイギュウは仲間が攻撃されると集まってきて守ろうとする性質があっため、その性質をハンターに利用された。

 「ステラーカイギュウが滅ばされた理由を聞くと切なくなるわ。」

 「本当だな。どうみても人間が悪役だ。」

 「ドードーもモアも人間に滅ぼされた生き物だよな。」

 「まるで特異種として表れて人間に復習したみたいね。」

 「そうなのよ、ダンジョンは自然を破壊した人間への罰という意見が強くなりそうだわ。」

 「最初の特異種はどの国でもいろいろな生き物の寄せ集めのキメラだったよな。それが第二の特異種は滅んだ生き物に似ていて、外国では大きな被害が出ている。」

 「もしかすると、キメラのときとは違って、きちんと準備して生み出されたのが第二の特異種なのかもしれないわ。」

 「一方で俺たちは加護や特殊なスキルをダンジョンで得た。」

 「ええ、それに凛がダンジョンで聞いた地の星の声は私たち人間を助けてくれてる。」

 「ダンジョンに何らかの意志は働いているのは確かだろうけど。」

 「ああ、どんな考えでいるのか、よく分からない。」

  四人は結局、結論を出せなかった。 


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