第31話 第二の特異種②

 召喚された魔物は小さく、巨鳥ほどの攻撃力はなかった。

 それでも、一体でも強敵なのに、相手の数が増えたのは痛い。

 二体の眷属は一体ずつ美邦と宗人が相手をしているが、特異種本体への攻撃の手数は減ってしまう。

 「キエエエ!!」

 怪鳥は再び火魔法を放つ。

 透士が盾で受けるが、火に包まれる。

 「ハイヒール!」

 顕続が何度目かの上位魔法を唱えた。だが、何度も放つと消耗が大きい。

 効果が低くなったようで、透士の火傷は治りきらない。

 「はあ、はあ」

 肩で息をしている顕続の様子を見て、宗人は危機感を強めた。

 このままではまずい。

 「千聡、スイッチ!」

 透士の隣りで戦っていた千聡は宗人の呼びかけで、眷属の方に走ってくる。

 入れ違いで怪鳥の前に宗人は走り込む。

 ちょうど、火魔法を放った後の一瞬の硬直を狙って放った愛の矢が怪鳥の目に刺さる。

 「グエエ!!」

 悲鳴を上げた怪鳥に対し、宗人は切り札を切った。

 「西国無双!!」

 宗人の身体を赤いオーラが包み込む。

 オーラは剣も包み、赤く輝く宗人の剣が怪鳥に迫ったが、その前に眷属が走り込んできた。

 宗人の剣は眷属を真っ二つにした。

 『しまった!』宗人は心の中で叫んだ。西国無双はクールタイムがあって連続して使えない。

 それでも眷属を一体倒したので楽になるかな。

 そう思ったとき、怪鳥が再び叫ぶと地上に魔方陣が浮かび、新たな眷属が一体現れた。

 これはマズイ。

 美邦先輩はもう一体の眷属を押しているものの、なかなか倒し切れない。

 怪鳥が再び放った火魔法で炎に包まれた透士を顕続は回復しきれず、ついに透士は膝を付く。

 怪鳥は、大技を放った後に硬直している透士の横を抜けると、後衛に向かって走った。

 顕続が剣で切りかかるが、嘴で払いのけられる。

 怪鳥の狙いは射手の愛だ。

 「愛ちゃん!」

 蘭がナイフを投げて、短剣で突っ込んでいくが、怪鳥は構わず突進する。

 愛は短剣を構えるが、その表情は蒼褪めている。

 「うおおおお!」

 そのとき、怪鳥の後ろに剣を突き刺したのは透士だった。

 火傷を負い、秀麗な顔からも血を流しているが、瞳の闘志は消えていない。

 怪鳥は透士を無視できず振り返ると、口を開き、再び火魔法を放とうとした。

 「透士!」

 ようやく動けるようになった宗人が駆け寄ってくるが間に合いそうにない。

 美邦と千聡は眷属を相手にしていて動けない。

 苦しそうな明嗣は治癒魔法を使えるか分からない。

 透士は覚悟を決めて盾を構えた。

 その刹那、透士の脳裏に声が響いた。

 『強大な魔物よな。だが汝は逃げずに仲間を護ろうとしておる。逆境にあっても諦めない意志を示した。それでこそ、我が加護を授けるのにふさわしい。』

 脳裏に響く声は満足そうに言った。

 『今こそ我が加護を与えん!』

 透士の身体の中に不思議な力が満ちる。

 『我が名は伊達政宗。独眼竜と呼ばれし者なり。我が加護をもって敵を討て!』

 透士の身体を青いオーラが包み込む。どんなスキルが使えるのか自然と透士には分かった。

 「天龍召喚!!」

 周囲に雷鳴が轟き、透士の頭上に龍が現れた。

 「クエエエ!」

 怪鳥は脅威だと思ったのか、龍に向かって火魔法を放つ。

 龍は口を開くと、魔法を放って迎え撃った。

 龍の放った青く輝く水流は怪鳥の炎をかき消すと、そのまま怪鳥を呑み込んだ。途中で分岐した水流は二体の眷属をも押し流していく。

 怪鳥はよろよろと立ち上がったが、全身に傷を負っている。

 「飛電!」

 好機とみた千聡が雷属性の上位魔法を唱える。

 「ギョエエ!」

 怪鳥は痙攣する。傷ついていたこともあったのか、これまで以上のダメージが入ったようだ。

 そこに美邦が槍を持って走り込む。

 「貫徹撃!!」

 槍は見事に怪鳥の心臓を貫いた。

 魔物は一瞬硬直したあと、恨めしそうな視線を七音に向けながら、どうっと地響きを立てて倒れた。


 「やったな、透士!」

 宗人が駆け寄り、透士と拳を合わせた。

 「これが加護なんだな、宗人。」

 「ああ、お前はどんな英雄の加護を得たんだ」

 「伊達政宗だ。俺の尊敬する武将だよ。」

 愛が近寄ってきて、透士の服の裾をそっと掴んだ。

 「ありがとう、守ってくれて。」

 「護るのは俺の役目だ。」

 透士は少し照れ臭そうに答えた。

 先輩たちも集まってきて、透士を祝福した。

 「凄いな、透士。あの龍は何だ?」

 「透士も加護を得たのかい?」

 「今回は透士のおかげ。」

 千聡は愛のもとに駆け寄り、抱きしめた。

 「愛、無事で良かった。」

 「ありがとう、千聡。」


 しばらくして、蘭は怪鳥が消えた後に宝箱が出現したのに気付いた。

 「ん。今回は出た。」

 早速、罠を確認して解除する。

蘭の罠解除スキルも上がっている。

 宝箱を開けると、武器や防具ではなく、皮の鞄と不思議な光沢のある金属が入っていた。

 「今回は鞄と素材みたい。」

 七音はダンジョンを出ると、特異種と思われる魔物を倒したことを報告した。

 今回は犠牲者が出なかったことをギルマスの藤里もダン学連の津田会長も喜んだ。

 強敵を倒したことで七音のレベルはさらに上がった。最も貢献した透士のレベルは2上がり、他のメンバーも1ずつ上がった。

 これで美邦と宗人はレベル13、蘭と顕続と透士はレベル12、千聡はレベル11、愛はレベル10になった。

 愛はユニークスキルの武士の心得も得ていた。


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