第27話 ダンジョンが変化した?
湾岸ダンジョンで不思議な経験をした次の朝、宗人はまだ暗いうちに目が醒めた。
寝直そうと思っても眠れなかったので、寮のカフェに来てコーヒーを淹れる。
かぐわしい香りを吸い込んで、ふうっと息を吐く。
また特異種が出現する。
嘘だと思いたいが、きっと凛の言葉のとおりになるんだろう。凛の巫女としての能力が優れていることは昨日よく分かった。
特異種とは一体なんなんだろう?
窓の外をぼうっと眺めながら考える。
ダンジョンの魔物は階層を降りるにつれて少しずつ強くなる。
危険はあっても、まるで探索者を育ててくれるような仕組みだった。
でも特異種は違う。
たいして強い魔物のいない階層に現れて、次元の違う強さで襲ってくる。
冒険者を育てるのではなく殺そうとする存在だ。
おそらくダンジョンには何らかの意思が働いていると思うけど、これまで冒険者を育ててきたダンジョンは変わってしまったのかな?
思い出せば、汐留ダンジョンのボスは異常に強かった。それにDフェアリーズを襲ったゴブリンたちも異常だった。
ひとり考え込んでいると、後ろから肩を軽く叩かれた。
「何を難しそうな顔をしてるんだ?」
「なんだ、透士か。」
透士は紅茶のカップを持って、宗人の向かい側に座った。
「随分と早起きだな。」
「特異種がまた現れるって聞いて、いろいろ考えちゃってさ。」
「まあな、いろいろ考えるのが自然だよな。俺もあまり眠れなくて、早く目が覚めたよ。」
宗人は透士にダンジョンが変化したかもしれないと考えていることを話した。
「そうか、そんなことを考えてたのか。」
透士は首をひねる。
「確かに特異種はいろんな意味でイレギュラーだな。でもダンジョンが冒険者を育てるのを止めたとまで言えるのかな。」
「日本はまだ被害者は少なかったけど、海外だと大きな犠牲が出たところもあるらしいな。」
「そうね、それに凛は第二の特異種と言ったわ。だとすると、第三の特異種もあり得るわ。」
後ろから声が聞こえて、宗人と透士が驚いて振り向くと、千聡と愛だった。
「私たちも早く起きちゃったのよ。」
「あんな話を聞かされるとねえ。」
二人も飲み物を持ってきて、同じテーブルに置いた。
宗人の隣に千聡、透士の隣に愛が座る。
「千聡の言うとおり、凛が聞いた地の星の声は『別の特異種』でも『新たな特異種」でもなく、『第二の特異種』と告げたんだよな。だから第三の特異種も現れると思った方がいいんだろうな。」
「そうだな。だけどダンジョンが探索者を育てることを放棄したとまでは言えないんじゃないかと思う。」
「透士がそう思う理由は、七音のメンバーが得た心得系のユニークスキルと、宗人が得た武将の加護かな?」
「愛の言うとおりだ。ダンジョンが探索者を育てることを止めたのなら、心得系みたいな強力なスキルや武将の加護を与えないだろう。宗人が立花宗茂の加護を得て使えるようになったスキルはチートと言ってもいい強さだ。」
「そうね、西国無双は相手の防御力を無視してダメージを与える破格のスキルだわ。特異種みたいな強力な魔物にも対抗できる。」
「そうだなあ。確かに透士と千聡の言うとおり、俺たちは強力なスキルを与えられたからキマイラを倒すことができたんだったな。」
だが愛は腑に落ちないようだ。
「そうね、みんなの言うとおり、ダンジョンは強力なスキルを与えてくれた。でも、特異種は初級ダンジョンにいる普通の冒険者がとても倒せるような強さじゃなかった。どうして特異種は初級ダンジョンに出たのかな?中級や上級じゃなくて。」
「そうなんだよな。特異種が冒険者を鍛える存在なら、初級ダンジョンじゃなくて中級か上級に出るほうが合理的だよな。」
「今度出現するっていう横浜ダンジョンも初級ダンジョンね。」
「結局、分からないことだらけだな。」
四人で話しても、謎は深まるばかりだった。
なぜ脅威となる特異種は出現したのか?
一方で強力なユニークスキルや加護をなぜ与えられたのか?
ただ、今となってはマナストーンなしには社会が成り立たなくなっている。だからダンジョンの謎が解けなくても、探索は止められないだろう。
そして特異種に対抗できるユニークスキルや加護を得た以上、七音は特異種と戦うことを避けられないだろうと四人は思った。
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