第26話 地の星の声

 七音のメンバーは周囲を見回したが、特に変わった様子はなかった。

 「凛を疑うわけじゃないけど、周りの森と同じように見えるが。」

 「美邦先輩の言われるとおり、隠されているので周りと同じように見えますね。でも何か神聖なものがあるのは確かなんです。」

 自信のある様子の凛は跪いて目を閉じ、祝詞のようなものを唱え始めた。

 「かけまくもかしこき…」

 すると足元の地面が少しずつ輝き始めた。

 複雑な文様が浮かび上がってきて、宗人たちは驚きに目を瞠った。

 やがて立ち上がった凛は「では、参りましょう」と告げた。

 身体が浮かび上がる感じがする。

 「透士、これはどこかに転移するのかな?」

 「ああ、宗人のいうとおり転移だろうな。」

 少しずつ光が収まると、凛と七音は不思議な空間にいた。

 そこには朱塗りの柱に取り囲まれた木造の社のようなものがあった。

 空間の外側は乳白色の煙のようなものに包まれていて、見えない。

 七音のメンバーは武器を構え、警戒する。

 「安心してください。ここには悪しきものはいません。」

 凛は落ち着いた口調で話した。

 「皆さんのお陰で、この場所に来られました。おそらく選ばれし者である皆さんと巫女の血をひく私が揃うことで結界が開かれたのです。」

 そして凛は社に向かって歩いて行く。

 社の前で再び祝詞を唱えると、扉が開いた。

 「ここからは私一人で参ります。しばらくお待ちください。」

 凛が社に入ると、扉は静かに閉じた。

 「顕嗣、凛は大丈夫かな?」

 「きっと大丈夫だ。凛は巫女としてこの場所に招かれたんだろう。」

 「それにしても、さっきの魔方陣は何だ?」

 「さて、何だろうね。ダンジョンにあんな仕掛けがあるとは聞いたことがない。やはり僕らの知らないことは多い。」



 しばらくして凛は戻って来た。

 「皆様、お待たせいたしました。」

 「いや、たいして待っていないさ。それで目的は果たせたのかい?」

 「はい、美邦先輩。地の星の声を聞きました。」

 おばば様が言っていたとおり、ダンジョンの中に隠されていた社で凛は星の声を聞いたのだった。

 そして凛が告げた言葉に七音のメンバーは驚愕する。

 「第二の特異種が現れます。」

 「何だって!」

 キメラとの激戦を思い出し、宗人たちは戦慄した。

 あんな化け物がまた出るのか。

 「出現する場所は横浜ダンジョン、時期はおよそ一月後のようです。」

 「そんなことまで分かるのね。」

 蘭がつぶやく。

 凛の巫女としての実力は高いようだ。

 「ともかく戻って部長に報告しよう。」

 気を取り直した顕嗣の声にみんな頷いた。

 「出口はこちらです。」

 迷いなく歩む凛についていき、朱塗りの柱の間を通り抜けた。

 そこには穏やかな輝きを放つ石があった。

 凛は跪き、祝詞を唱える。

すると地面が光り始め、また不思議な浮揚感がした。

 光が消えると、もとの森の中だった。

 「千聡、もとの場所に戻ったのよね。」

 「ええ、そうみたいね。」

 千聡と愛は周囲を見回している。

 「はい、ここは湾岸ダンジョンの10層ですよ。」

 凛は微笑んでいるが、七音のみんなにとっては不思議過ぎる体験だった。

 それにしても凛の聞いた地の星の声は重要な内容だ。

 七音と凛は急いで湾岸ダンジョンの上の層に進み、ダンジョンを出るとすぐに津田部長に報告した。

 「そうか、次の特異種が出るんだね。」

 電話の向こうで部長は珍しくため息をついた。

 「キメラで終わってくれると良かったんだが。」

 それでも、部長はすぐに気を取り直したようだ。

 「貴重な報告をありがとう。どうせ特異種が出るなら、事前に場所と時間が分かったのはすごく助かる。

 凛と七音のみんなには深く感謝するよ。

 ギルドには私から報告するから、みんなはゆっくり休んでほしい。」

 確かに、まだ昼過ぎだが今日はいろいろあって宗人たちは疲れていた。

 決断が早く、気配りもできる津田部長は良いリーダーだな。

 そう思いながら寮に戻った。

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