第24話 探索の再開

 政府とダン学連は8月中旬からダンジョン探索を再開することで合意した。

 温暖化の進んだ日本の8月はまさに猛暑だ。気温は連日40度を超え、エアコンのための電力需要は以前よりも大きくなっている。

 このまま電力不足でエアコンが使えなくなると死者も出るだろう。マナストーンを得るための探索再開は政府の要望というより社会の要請だった。

 探索再開に当たり、特異種に備えるためにダン学連は各校のトップパーティに大学の枠を越えて有力な探索者を集めて強化する方針を打ち出した。

 特異種を倒したことでトップパーティとして認められた七音も新メンバーを迎えた。

 新メンバーは正法大の雷姫こと橘千聡ちさとと南関東公立大のDフェアリーズの鳴多愛だ。二人とも七音に縁があり初対面ではないが、歓迎会が開かれた。

 二人がびっくりしないように宗人と透士は先輩たちの変わり者ぶりを事前に説明しておいたが、布団の伝道師、キノコの伝道師、カレーの伝道師はどれも現れなかった。

 「なんで俺たちのときと対応が違うんですか?」

 「宗人の言うとおりですよ。」

 二人は不満だったが、先輩たちは「何のことかな」としらを切っていた。

 宗人と透士にはなぜか遠慮が要らない気がしてしまった先輩たちだが、変人であっても常識がないわけではないので、よく知らない相手と飲むときは伝道師になったりしない。

 それはさておき、新たにメンバーになった二人もこれからは背中を預け合うのでファーストネームで呼び合うことにして、千聡、愛と呼ばれることになった。

 愛は七音に加入するのと同時に帝都大のダンジョン寮に引っ越してきた。美邦と蘭に寮の施設を案内してもらった愛は、施設の充実ぶりに驚いた。規模が大きく有力探索者が多い帝都大の施設は充実している。もっとも享保大の施設はさらにお洒落で高級感もあるようだったが。


 ダンジョン探索の再開にあたり、七音は新メンバーとの連携を確認するため、まずは湾岸ダンジョンの浅い層を探索することにした。まだレベル5の愛のレベルを上げておく必要もある。

 津田部長の肝いりで帝都大も動画配信をするようになったので、その様子はドローンが撮影している。

 「初めまして、七音の杼口です。湾岸ダンジョンから中継しています。新しいメンバーが加わってくれたので、今日は浅い層で連携を確認するつもりです。」

 顕続はドローンに向かって話した後で、「こんな感じで良いのかな?」と千聡と愛に聞いた。

 「大丈夫ですよ。」

 「OKです。」

 二人からダメだしをされずに済んで顕続はほっとした。

 七音は台風のボランティアのときに配信したといっても、ダンジョンで配信するのは今回が初めてだ。その点、新メンバーの二人は配信に慣れているので頼りになる。

 配信では顕続に続いて、七音のメンバーが一人ずつ自己紹介をした。

 七音は特異種を倒した注目のパーティだし、新メンバーは二人とも人気があるので、配信の視聴者数はみるみる増加し、コメント数も急上昇していった。

 配信は慣れなくても湾岸ダンジョンの探索は慣れている。

 特に苦戦することもなく七音は進む。

 「うーん、あっさり5層への階段に来てしまったね。今日は5層で引き上げても良いと思ってたんだが。」

 ゴブリンアーチャーは、愛の弓のほうが射程も威力もあるのであっさり倒せる。

 これまで魔法以外の遠距離攻撃を持たなかった七音にとって、愛は早くもパーティの攻撃のアクセントになりつつある。

 汐留ではそれなりの強敵だったオークも、前線に千聡が加わり、心得系のユニークスキルで前衛の能力が底上げされたことで完封できる。

 「とりあえずお昼ご飯にしようか。」

 階段の周囲は魔物が出ないので、持ってきたお弁当をみんなで食べる。

 千聡と愛に感想を聞くと、二人は蘭の索敵スキルが凄いと声を揃えた。どの方角からどの魔物が何体来るか分かることに千聡と愛は驚いていた。

 「ビューティーアンドガイズの斥候も優秀だったんですが、蘭先輩の精度はちょっと考えられないです。」

 急成長したのは宗人と透士だけではない。蘭の索敵スキルは上級生のトップパーティの斥候にも劣らないまでに向上していた。

 お昼ご飯の後、慢心は禁物とはいえ、敵が弱いと連携の練習にならないので、予定より深い階層まで潜ることになった。

 湾岸ダンジョンの5層と6層にはレベル5のジャッカルとレベル6のリザードマンが出る。

ジャッカルの七体の集団が現れて、ようやく七音は連携した戦闘を展開した。

 「行きます!」

 まず愛が弓で射る。一体のジャッカルの眉間に見事に命中する。

 「次は俺たちだな。」

 「ええ。」

 続いて宗人と千聡が魔法を撃つ。魔力の消耗を抑えるために初級魔法の「炎撃」と「雷撃」を撃つ。魔法の名前は心得系のユニークスキルを得たことで変わっていた(最近ミスの多い誰かが打ち間違えたわけではない)。炎撃はファイヤーボールから、雷撃はサンダーボールから変化したスキルで、威力が上昇している。

一体のジャッカルは炎に包まれ、もう一体は雷に打たれて倒れ伏す。

 残った四体の敵には美邦と透士が応戦する。それぞれ二体を相手にしているとすぐに宗人と千聡も前に上がってきて、一対一になると次々に倒していく。

 顕続の出番は無かった。

 リザードマンとも戦ったが、単体ではジャッカルより強いもののジャッカルのように群れないので、むしろ簡単に倒せる。

 7層になってヒュージスコーピオンが不意打ちをしてきたとき、蘭の警告への対応が遅れた愛が毒を受けて、やっと顕続の出番があった。

 「ありがとうございます、先輩。」

 「いや、ようやく僕の出番ができたからむしろありがとうみたいな。まあ治癒士の出番はないほうが良いんだけど。」

 8層まで来たところで、まだ夕方にもならないくらいだった。

 それでも愛のレベルが6に上がったこともあって、無理をせず七音はダンジョンを出ることにした。

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