第20話 決着

 未知の魔物との戦闘状況は膠着していた。

 魔物の状態異常攻撃は防具のおかげで防ぐことができる。

 だが魔物の防御力は高く、大きなダメージを与えられない。

 橘さんの雷魔法は魔物も警戒していて、魔法を撃とうとすると火魔法で相殺される。

 逆に言えば雷魔法を警戒させているので、魔物の魔法攻撃を受けずに済むとも言えるが。

 宗人の炎魔法は魔物の皮を焦がすくらいしか効果がない。どうやら炎魔法には高い耐性を持っているようだ。

 一応膠着状態ではあっても、魔物のほうが攻撃力は高く、綱渡りのような状態だ。

 そうこうするうちに透士が魔物の攻撃を受けきれず、宗人が前足の爪を受けた。

紙を裂くように簡単に宗人の鎧は切り裂かれ、血が飛び散る。

 魔物は宗人に噛みつこうとしたが、

 「させません!ライトニング!」

 橘さんが雷魔法を放ち、魔物の注意が逸れて、どうにか追撃は免れた。

 顕続先輩がかけてくれた治癒魔法で宗人の傷はふさがっていく。

 しかし魔物の攻撃を防具では防げないことが分かってしまった。透士の盾も少し歪んできたように見える。

 魔物がにやっと笑った。

 このままではじり貧だ。

 だが退却するにも魔物の攻撃は隙がなくて距離が取れない。

 「ビキ!」

 嫌な音がした。ついに透士の盾にひびが入ったようだ。

 次の一撃で盾は割れ、透士は吹き飛ばされる。

 「キシャアア!」

 魔物は歓喜の声を上げる。

 前衛で盾を持っていた騎士という邪魔が無くなったことで魔物は後衛に向けて尾を振るう。尾の先から毒液が飛び散る。。

 橘さんは咄嗟に避けようとしたが、脚に少しかかってしまい、紫色に腫れ上がる。

 「キュアポイズン!」

 すぐに顕続先輩が駆け付けて治癒魔法をかける。

 その顕続先輩に向けてライオンの牙が迫る。

 「ペネトレイト!!」

 美邦先輩が横からライオンの顔に強力なスキルで槍を突き立てる。

 だが美邦先輩の卓越した槍術でも、妖精銀ミスリルの槍でも、深く刺さらない。

 魔物の尾は、今度は美邦先輩を狙う。

 「うおおお!」

 美邦先輩を守るために宗人が魔物に突っ込んでいく。

 その刹那、再び脳裏に声が響いた。

 『勇気ある者よ。弱き者たちを逃がすため、お主らが踏みとどまったのは良きかな。今また味方のために危地に踏み込もうとするはまこと武士もののふなり!』

 不思議な声はどこか嬉しそうだ。

 『今こそ我が加護を与えん!』

 宗人の体の中に不思議な力が満ちる。

 『我が名は立花宗茂。太閤閣下に西国一と称されし者なり。お主は我が加護に値する勇者である!』

 そして、これまで聞いたことのないスキルが使えることを宗人は感じた。

 魔物に突っ込みながら、そのスキルを発動する。

 「西国無双さいごくむそう!!」

 宗人の剣は赤いオーラに包まれ、あれほど堅かった魔物の皮を簡単に切り裂いた。

そして剣は内臓まで深く届き、魔物の胴体を半ば両断した。

 「グギャオオオ―ン!」

 魔物は痛みに絶叫する。

 「今です!ライトニング!」

 橘さんが胴体の傷に雷魔法を放つと、魔物の身体は硬直した。

 「シっ!」

 動きの止まった魔物の目に蘭先輩の投げたナイフが刺さる。

 「ペネトレイト!!」

 走り込んだ美邦先輩は胴体の傷に全身で槍を突き込んだ。

 今度こそ深くまで槍が突き刺さり、魔物の心臓に達する

 ドウっと魔物の巨体は横倒しになり、地響きと共に土煙が上がった。

 やがて目の光が消え、巨大なマナストーンを残して魔物は消えた。


 「強敵だったな、宗人。」

 「ああそうだな。やられるんじゃないかと思った。」

 宗人の鎧は大きく裂け、透士の盾は大きなヒビが入っている。

 「妖精銀の武器を得て慢心していたのかな。」

 「そうかもしれないね。汐留のボスどころじゃない強さだった。」

 「宗人のお陰。」

 「そうだな。蘭の言うとおり、今回も宗人に助けられた。最後の青いオーラはまた不思議な力のお陰かな。私たちはまだまだ弱い。」

 先輩たち3人は頷きあった。

 そこに橘さんが近づいて来る。

 「橘の魔法にも助けられた。助力に感謝する。」

 「いえ、私は前線で剣を振るうことができませんでした。あまりお役に立てず悔しく思います。」

 「そんなことは無いよ。俺がやられそうになったとき、君の魔法に助けられた。」

 宗人が感謝すると、橘さんは照れ臭そうにした。


 苦戦したが、どうにか魔物を倒すことができた。

 七音と橘さんがダンジョンを出ると、逃げ出すことができた多くの探索者から感謝された。

 「姫、無事でよかった。くうぅ、俺たちにもっと力があれば。」

 ビューティ&ガイズのメンバーは橘さんの無事を暑苦しく喜んだ。

 多くの犠牲が出ることは防げたが、後にギルドが有力パーティーに依頼して調査したところ、逃げ遅れた探索者の遺体が森の中で見つかった。

 ダンジョンが発見された当初は死者もかなり出たが、ギルドが各ダンジョンに治癒魔法使いを配置してからは、怪我をする者はいても死者は出ていなかった。

 探索者に死者が出たことで関係者に衝撃が走った。しかも亡くなった者は一人ではない。

 大怪我をした者もいる。奮戦した正法のビューティ&ガイズの前衛など、腕や足に魔法で回復しきれないダメージを負った者は何人もいた。

 ギルドは事態を重視し、すべてのダンジョンが立ち入り禁止になった。

………

 伊勢の山中の隠された聖域で、祈っていた老婆は目を開けた。

 「ふむ。選ばれし者たちは一つの試練を超えたようじゃな。過去の英雄たる戦国武将が一人、立花宗茂は加護を与えたか。

 ふふ、鷹羽宗人か。名は体を表すもの。高橋統虎むねとらとは縁のある者じゃな。早く加護を与えたがっていたようにも思えるのう。」

 老婆はゆっくりと歩く。

 「まだ七人すべてが揃ってはおらぬが、体制は整いつつあるようじゃ。」

 その先には少女がいた。

 「凛、ここにおいで。」

 「はい、おばばさま。」

 射干玉ぬばたまの黒髪の乙女が歩み寄る。

 「お主にやってもらうことがある。半ば海に沈みし都で選ばれし者たちに会い、地の星の声を聞いて伝えるのじゃ。」

 「地の星、ですか。私たちは空の星を詠む一族ではありませんか。」

 「ふふ、行けば分かるのじゃが。実はな…」

 老婆の説明を聞いた少女は頷いた。

 「そうなのですね。それでは東京に参ります。」


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