第18話 新しいダンジョンの出現
七音が湾岸ダンジョンの中ボスを倒した翌週、大ニュースが駆け巡った。
埼玉の岩槻で新しい初級ダンジョンが発見されたのだ。しかもダン学連の依頼を受けて高レベルの上級生パーティーが探索したところ、ゴブリンなどの人型の魔物が出ないダンジョンだった。
帝都大の寮の共用棟にあるカフェに七音のメンバーは集まり、そのニュースのことを話していた。
「これは良いニュースだね。」
「そうだな。人型の魔物と戦えないから浅い層しか探索できない者は少なくない。」
顕続先輩と美邦先輩はコーヒーを飲みながら頷く。
「久しぶりの新しいダンジョンだし、しかも人型の魔物が出ないから、多くの探索者が押し寄せているようですね。」
透士が見ているタブレットを宗人は覗き込んだ。
「うわ、本当だ。大混雑だな。」
岩槻駅は探索者で込み合っていた。大海嘯の結果、関東平野の東部分は広く海に浸食され、内陸だったさいたま市の岩槻区は海岸の近くになった。
高潮や台風の脅威にもさらされ、引っ越す人も増えていた。新たなダンジョンの誕生は地元の経済にもプラスになると期待される。
「まあ僕らは湾岸ダンジョンの10層以降を目指そうか。」
七音のメンバーは、より強くなるためには中級の湾岸ダンジョンの攻略を続けようと考えていた。
湾岸ダンジョンの中ボスを倒すまで攻略を進めたことでレベルもあがり、美邦先輩はレベル9、蘭先輩と顕続先輩はレベル8、宗人と透士はレベル7になっていた。
さらに中ボスがドロップした宝箱から出た防具はギルドで鑑定してもらうと高い防御力があった。詳細は分からなかったが特殊な効果も付いているらしい。
そのとき、一通のメールが届く。
「おや、津田部長からのメールだ。」
美邦先輩の声にみんなもメールボックスを確認する。
届いたメールには、「どうも悪い予感がする。済まないが私はすぐに動けないので、君たちは岩槻ダンジョンに行ってくれないだろうか」と書いてあった。
部長の要請は無視できない。
七音は岩槻ダンジョンに行くことにした。
混雑する岩槻ダンジョンの入り口でダンジョンに入る順番を待っていると、宗人は周囲からの視線を感じた。
「ん、俺の恰好は何かおかしいかな?」
「違うよ、新人戦で目立ったからだよ。」
透士は宗人の肩を叩きながら笑った。
そんな透士にも女性探索者の視線が向けられている。
「ねえ、あの人イケてない?」
「ああ、T大の伊達君でしょ。最近人気だよ。」
宗人ほど新人戦で目立ったわけではないが、透士も団体戦優勝に貢献した将来有望な若手探索者であり、しかもイケメンだ。
「何か俺を見るのはガタイの良い連中が多くて、透士を見るのは女の子が多くないか。」
「気のせいだよ、きっと。」
ようやくダンジョンに入ると、1層は灌木がまばらに生えるサバンナだった。
岩槻の1層は汐留と同じでスライムしか出ない。2層にはホーンラビットしか出ないのも同じだ。
違うのは3層にゴブリンは出ず、ゴブリンと同じレベル2の魔物であるジャイアントバットが出るところだ。ジャイアントバットは空を飛ぶのは厄介だが、ゴブリンのような知能はなく、弓か魔法が使えれば楽な魔物だ。
「噂どおり、3層にゴブリンは出ないんだな。」
ファイヤーボールで近寄ってきたジャイアントバットを落としながら宗人は透士に話しかけた。
「そうだな。ゴブリンはたいていのダンジョンにいるのに。」
透士は盾を使う機会もほとんどなく、手持ち無沙汰な感じだった。
なぜなら宗人がファイヤーボールで落としきれなくても、接近してきたジャイアントバットは美邦先輩が槍を一振りすると地に落ちるからだ。
たまに打ち漏らしがあると、蘭先輩がナイフを投げて倒す。
顕続先輩も透士と同じで暇そうだ。
岩槻の4層はジャイアントバットとレベル3のファングボアが出て、5層は地形が岩山になるが、ファングボアとレベル4のマウンテンゴートが出るだけで、人型のコボルトは出ない。
6層になって地形が森林になっても、レベル4のソードエルクとレベル5のヒグマが出るだけで、オークは出なかった。
「汐留ダンジョンより少しレベルの高い魔物が出るけど、これは人型が苦手な探索者には良いダンジョンだね。」
顕続先輩の言葉どおり、6層にも多くの探索者がいた。汐留ダンジョンの下層にはこんなに人はいない。
七音のメンバーが周囲を見渡していると、近くにいたパーティーの一つが近づいてきた。
「お久しぶりですー!」
近づいてきたのはDフェアリーズだった。
「お久しぶり。君たちは6層にまで来ているのかい?」
彼女たちは汐留ダンジョンでは2層より下に行っていなかった。
「はい、本田先輩。私たちもあれから鍛えているんですよー。汐留ダンジョンでもゴブリンアーチャーにはリベンジしたんですー。」
Dフェアリーズのメンバーはなかなかに強いメンタルを持っているようだった。
「新人戦で皆さんの活躍を近くで見て、私たちも頑張ろうと思ったんです。でも人型の魔物を倒すのは特に前衛は大変なんですが、このダンジョンが現れたので、このところ毎日通ってます。七月下旬で学期末ですし、もう出席は足りてますから、学校を休んでも単位は大丈夫なんです。」
「愛ちゃんの弓は凄いんだよー。」
「鳴多さんの弓は天性のセンスがあるから、鍛えれば強くなると思っていたよ。」
「そうだね、俺もそう思っていたよ。」
透士と宗人の言葉に彼女は照れた。
聞けばエース格の鳴多さんはレベル5まで上がり、他のメンバーもレベル4になっているようだった。
「運良くオークが妖精銀の弓をドロップしてくれたので、そのお陰なんです。」
鳴多さんは謙遜したが、その話に蘭先輩は首を傾げた。
オークが妖精銀の武器をドロップするなんて非常にレアなことだ。
七音の新人二人は異常だが、この子も普通と違うのかもしれないと蘭先輩は思った。
ちなみに蘭先輩も十分異常な能力だが、本人にその自覚は薄いようだ。
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