第15話 新人戦(団体戦①)

 新人戦は二日目を迎えていた。

 個人戦の興奮の余韻が残る中、今日は各大学の代表パーティが登場する団体戦とあって、汐留ダンジョンの入り口近くの特設会場にはさらに多くの人が詰めかけている。

 「さあ、いよいよ新人戦の団体戦が始まります。それぞれの大学の期待を背負って代表パーティが戦います。」

 司会の声に会場は歓声で応える。

 「解説は今日も享保大OGの三条さんにお願いします。個人戦は帝都大の鷹羽選手が優勝しましたが、団体戦の優勝候補のパーティはどこでしょう?」

 「そうですね。個人戦二位の橘選手のいる正法大のパーティ『ビューティアンドガイズ』は力がありますね。前衛に屈強な盾役が二人並び、橘選手は攻撃に専念できます。享保大のパーティ『ブラン・シュバリエ』も前衛には個人戦三位の澄友がいますし、後衛に実力のある魔法職を配していますからバランスがとれたパーティです。」

 「やはり個人戦上位の実力者がいるパーティは強いようですね。帝都大はどうでしょう?」

 「はい、帝都大のパーティ『七音』は情報が少ないので、その実力はベールに包まれているのですが、個人戦優勝の鷹羽君がいます。同じ新入生の伊達君も力があることはDフェアリーズを救出した動画で分かっていますから、有力だと思います。」

 「帝都大は動画配信をしていませんから情報は少ないですが、おそらく実力はあるものと思われます。ところで、話に出たDフェアリーズですが、実は今日のゲストとして来てもらっています。」

 「こんにちは―、Dフェアリーズでーす!今日はよろしくお願いしまーす!」

 司会ブースにDフェアリーズの4人が登壇する。

 会場はどよめき、男子を中心に一層盛り上がる。

 「よろしくお願いします。この特設会場も華やかになった感じがしますね。ところで皆さんは帝都大の鷹羽君たちとダンジョンで会ったそうですね。」

 「はい。危ないところを鷹羽君と伊達君に助けてもらいましたー。」

 「下の階から強い魔物が上がってきて怖かったんですけどー、二人とも頼もしかったですー。」

 「そうでしたか。ダンジョンではときどきイレギュラーに強い魔物が浅い階層に上がって来ますからね。。皆さんが無事で良かったです。」

 司会の横から解説の三条さんが質問した。

 「ところで、その場にいたのは鷹羽君と伊達君だけだったんでしょうか。」

 弓使いの鳴多さんが代表して答えた。

 「いえ、2年生の方たちも来てくださいました。」

 「そうでしたか。しかし動画に映っていたのは二人だけでしたが。」

 「はい、二年生の皆さんはより強い魔物のゴブリンナイトたちと戦っていたそうです。ゴブリンとゴブリンアーチャーは一年生の二人に任せると先輩たちに言われたそうです。実際に二人はあっという間にゴブリンたちを倒してくれました。」

 三条さんは大きな目を見開いて驚いた。

 「そうでしたか。普段は汐留ダンジョンにゴブリンナイトは現れないのですが。本当に皆さんが無事で良かったです。」

 「三条さん、今の話からすると、七音の2年生は新人戦優勝の鷹羽君や伊達君を上回る実力を持っているようですね。」

 「ええ、そうなりますね。」

 司会ブースで話をしているうちに、各パーティは準備ができたようだ。

 会場の大スクリーンにはダンジョンの地下一層でスタートを待つ選手たちが映し出される。 

 「いよいよ団体戦が始まります。栄冠をつかむのはどの大学でしょうか。」

 号砲が鳴り、各校の代表パーティは一斉に駆け出した。


 七音は敵との接触はなるべく控えつつ、最短距離を進むために避けられないときは戦うことにしていた。

 一層はスライムしか出ないので、魔物との接触は気にせず真っすぐ進む。

 「前方右手にスライム1体、左手に2体。」

 蘭先輩の言葉を受けて、宗人が右手のスライムを一刀で倒し、左手のスライムの一体には美邦先輩が槍を一閃、もう一体は透士が盾で吹き飛ばした。

 吹き飛んだスライムに止めは刺さない。弱い魔物は無理に倒さなくても障害にならない。

 その後も寄ってくるスライムを蹴散らしながら、七音は二階への階段に向けて進んでいく。


 「三条さん、魔物を避けるのか、戦って最短距離を目指すのか、各校の戦略が注目されますね。」

 「そうですね。ただし一層はスライムしか出ませんから、各校とも真っすぐ進むでしょう。二層もホーンラビットだけですから、力に自信のあるパーティは直進すると思います。」

 会場のスクリーンに映る各校のパーティは一層を直進し、二層への階段に向けて突き進む。

 「各校ともほぼ同時に二層に入りました。」

 会場では各校の応援団が賑やかに代表パーティを応援し、観客も推しのパーティが映ると声援を送る。

 「さあ、二層では各校ともどんな戦略をとるのでしょうか。」

 「交戦を避けるパーティも出てきましたね。しかし有力校は真っすぐ進んでいますね。」

 スクリーンにはホーンラビットを瞬殺する享保大の澄友選手が映る。

 次に正法大のパーティに画面が切り替わると、橘さんが雷魔法で二匹のホーンラビットを痺れさせ、動けなくなったホーンラビットを前衛の二人が盾で弾き飛ばしながら突進する姿が映った。

 その映像に正法大の応援団が盛り上がる。男子の比率が高い正法の応援席は暑苦しい感じだ。

 「橘選手の雷属性魔法は相手を麻痺させますから有利ですね。」

 「なるほど、弱い魔物なら倒さなくても動きを止めればよいわけですね。」

 帝都大の七音もスクリーンに映った。

 宗人は魔法と剣を使い分け、透士は盾でホーンラビットを撥ねとばす。そして美邦先輩は目にも止まらない速さで槍を振るい、魔物を倒していく。

 もともと鋭かった美邦先輩の槍捌きは一層凄みを増している。

 ボス戦で宗人に助けられてから、美邦は自分の力不足を痛感し、鍛錬を続けてきた成果だ。

 もちろん他のメンバーも強くなっている。

 「頑張れー!!」

七音がスクリーンに映るとDフェアリーズも声援を送る。

 会場のスクリーンはパーティ全体を映すほかに、個人をアップで映すこともある。

 透士の顔が画面の中でアップになると、会場がざわついた。

 「あれ、T大のあの人、やばくない?」

 「鷹羽君もワイルドな感じで良いけど、こっちは少しクールな感じのイケメンね。」

 「年上に興味はないかしら?」

 顕続先輩も整った顔をしていて、宗人は野性的な魅力がある。

 いろんなタイプの揃った七音には、だんだん女性の応援が増えてきた。


 そうこうしているうちに、有力三校は3階への階段に近づいていく。

 「これは享保、正法、帝都の三校のデッドヒートになってきました。三校とも魔物を避けることなく直進しています。」

 「ええ、三校のパーティはホーンラビットをまったく寄せ付けませんね。」

 「先頭が三層への階段に来ました。トップで通過したのは正法大学、少し遅れて享保と帝都がほぼ同時に進んでいきます。」

 上位三校はいずれも三層に突入した。

 「先頭の三校は三層に入りました。ここからは知性のある魔物ゴブリンが現れます。さすがに直進はできなくなると思われます。」

 「ええ、ここからが勝負ですね。」


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