第14話 新人戦(個人戦)

 「さあ、各選手がスタートしました。」

 会場から歓声が上がる。

 「三条さん、各選手とも一体でいる魔物を探しているようですね。」

 個人戦では複数の魔物を相手にするのはリスクがある。だから狙うのは一体で動いている魔物が基本となる。

 「そうなんですが、複数の魔物と戦う選手もいます。正法大の橘選手を見てください。」

 会場の大スクリーンに橘選手の画面が映し出される。

 解説の三条さんのいうとおり、橘選手は二体のホーンラビットに向かっていた。

 「サンダーボール!」

 雷属性の初級魔法を放つと、命中した一体は痺れて動けなくなる。

 残りの一体のもとに走り込むと、ホーンラビットはジャンプして角を突き出してきた。

 橘選手は魔物の動きをよく見てかわし、剣を振りぬく。

 「キャオ!」

 ホーンラビットはマナストーンを残して消えた。

 そして、痺れていたホーンラビットに止めを刺す。

 「さすが魔法戦士ですね。遠距離でも近距離でも攻撃できるのは大きいです。それに小さな魔物が相手なので、リーチの違いをうまく生かしています。」

 「なるほど、橘選手は複数のホーンラビット相手でも危なげないようですね。」

 「そうですね。」

 手元のスクリーンを操作していた三条さんは驚いた顔をした。

 「もう一人の魔法戦士、帝都大の鷹羽選手はさらに強気ですよ。」

 会場の大スクリーンに今度は宗人の映像が映し出される

 宗人はホーンラビット三体のグループに接近しているところだった。

 少し離れたところで右手を上げる。

 「ファイヤーボール!」

 一体の頭に上手く命中した。炎に包まれたホーンラビットは倒れ、マナストーンを残して消える。

 残りの二体が「キャキャオウ!」と叫びながら向かってきた。

 宗人も駆け出し、正面から迎え撃つと見せて直前でステップを切ってかわすと、すれ違いざまに一体を切り捨てる。

 もう一体のホーンラビットとは正面から向き合い、ジャンプして角を突き出してきた魔物の動きをかわすと、地面に降りようとしているところに切りつける。

 「キャオ!」

 ホーンラビットは地に倒れると消えた。

 「なんと、鷹羽選手は三体を同時に相手にできるようですね。」

 「ええ、魔法の命中精度が高いですし、近接戦闘の動きが素晴らしいですね。パワーはさすがに近接専門職の方が上でしょうが、スピードがありますし、センスの感じられる戦いぶりです。」

 その後も橘さんと宗人は、一体のホーンラビットを狙うことはなく、むしろ複数でいるところを狙って攻撃していく。

 特設会場の大画面は各大学の選手を交替に映していたが、やがて二人が映ることが増えていく。

 「おい、あれを見ろよ。」

 会場がざわつき出す。

 「すげーな、複数を相手に無双してるぜ。」

 帝都大のブースでは七音しちおんの仲間たちが画面を見守っていた。

 「やるな、宗人。これなら優勝行けるかな。」

 透士が盛り上がっていると、美邦先輩は腕を組んでうなった。

 「うーん、どうだろうな。確かに宗人はよくやっているが、正法の橘選手も強いな。蘭、どう思う?」

 「魔法は互角。近接戦闘は少し宗人に分があると思う。」

 「冷静な蘭がそういうなら、宗人は勝てるかもしれないな。もし勝てなくても、例年以上にハイレベルな個人戦だ。結果はどうであっても、僕らは宗人を祝福しよう。」

 顕続先輩の言葉にみんなは頷いた。


 やがて制限時間を告げるブザーが鳴り、各選手は動きを止めた。

 魔物の返り血を浴びている選手も多いので、ダンジョンの地下一階にあるシャワーで洗い流し、温風で乾かしてから地上に上がる。

 怪我をしている選手はダン学連が用意した治癒士に治療してもらっていた。

 ホーンラビットは強い魔物ではないが、一人で何体も相手にしていると、集中力の切れたすきに傷を負う。

 そうして選手たちが地上に上がる準備をしている間に、各選手の動画を確認して、何体の魔物を倒したのかをダン学連は確認した。

 やがて選手たちがダンジョンから地上に上がり、観客たちの待つ特設会場に集まってきた。

 「さあ、それでは結果の発表です。」

 10位の選手から発表される。

名前を呼ばれた選手の所属する大学の応援団が歓声を上げる。

 農業大学の選手の名が呼ばれたときには、応援団は持っていた野菜を大きく振って喜んだ。

 4位までの発表が終わり、残すところは表彰される上位3名のみになった。

 「さあ残るは三校ですね。三条さん、優勝はどこでしょう?」

 「そうですね、おそらく帝都大か正法大でしょう。」

 会場のボルテージも上がってくる。

 「それでは3位の発表です。記録は8体。享保大学の澄友結衣選手です。」

 歓声がワーッと沸き上がる。

 享保大OGの三条さんが澄友選手に近寄ってハグをすると、歓声は一層大きくなった。

 「8体は好記録です。例年なら優勝もあり得る記録です。澄友選手、おめでとうございます。」

 司会者の言葉に三条さんも頷いた。

 「そうですね、今年は特にレベルの高い戦いになりました。」

 「続いて2位の発表です。記録は12体。個人戦で10体を超える記録は見事です。栄えある2位は、」

 司会が間を置くと、会場は静まりかえる。

 「正法大の橘千聡ちさと選手です!」

 歓声が上がり、橘選手が歩いてくる。あちこちから「雷姫らいき―!」「姫―!」と声がかかる。

 橘さんが表彰台に上がると、三条さんが祝福した。

 「さあ、残りは一人。記録はなんと14体。これまでの最高記録だった13体を更新しています。今年の関東ダンジョン学生連盟新人戦個人の部の優勝者は、」

 会場が静まる。

 「帝都大の鷹羽宗人選手です!」

 ウオーという大歓声が上がる。

特に帝都大の応援団は大騒ぎだ。

 「やったな!宗人!」

 透士は叫び、先輩たちも立ち上がって拍手をする。

 宗人が表彰台に上がると、ダン学連の会長がやってきて、賞状とトロフィーを授与した。

 宗人がトロフィーを掲げると、会場のボルテージは最高潮に達した。


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