第7話 宗人と透士の成長
5月に入り、宗人たちは汐留ダンジョンの下層を探索できるようになっていた。
ゴブリンアーチャーの遠距離攻撃にも慣れて、盾を持たない宗人も無傷で倒せるようになっている。
一年生二人のレベルは4まで上がっていた。
ゴールデンウィークの間に6層もクリアして、今日は7層を探索する予定だ。
そうして下の階に移動する途中、2層で見慣れない光景に出くわした。
「みんな元気ぃー?今日もダンジョン探索始めるよー。」
可愛いアイドルっぽい服を着た女の子たちがカメラに向かって笑顔を振りまいている。
「な、何ですか?あれは。」
宗人は驚きのあまり足を止めた。
「ああ、きっとダンジョンアイドルだよ。ダンジョンからの配信は結構人気があって、私立大学には随分お金をかけて配信しているところもあるんだ。最初は普通の探索者が配信していたんだけど、最近になって最初から配信を意識したダンジョンアイドルも出て来たらしいんだ。」
説明してくれた顕続先輩は「僕も直に見るのは初めてだけどね」と頭をかいた。
4人グループの彼女たちはひらひらした衣装で、防御力は大丈夫なんだろうか気になったが、まあここはホーンラビットしか出ないからいいのかなと宗人は思った。
思いがけない場面に出くわしたが、予定どおり宗人たちはダンジョンを下に降りていく。
6層からは地形は岩山に変わり、あちこちにある洞窟からコボルトが飛び出してくる。コボルドはLv4でゴブリンよりレベルが高く、質は低くても剣を持っていて、集団で襲って来るのが特徴だ。
7層に入ってすぐ遭遇したのは、そのコボルドの集団だった。7体もいるので、厄介な敵だ。
右手の4体は宗人と透士、左手の3体は美邦先輩が受け持った。
「ファイヤーボール!」
宗人は一番近くにいるコボルドに魔法をたたき込む。
レベルが上がったのでファイヤーボールも威力が増している。コボルドは一発で倒れた。
左から接近してきたコボルドの剣を受ける。
数合打ち合ってから、コボルドの剣を跳ね上げ、袈裟切りにする。
「グエエ!」
コボルトは前にばったりと倒れた。
剣の威力も速さも増している。
宗人の横では透士も二匹のコボルドを相手にしていた。
最初に近づいて来た一匹の攻撃を盾で受け止めると、スキルを発動した。
「シールドバッシュ!」
コボルドを吹き飛ばして転倒させると、もう一匹のコボルドの剣は盾で受ける。
しばらく剣で打ち合ってから隙をついてコボルドの心臓を突いた。
シールドバッシュで倒れたコボルドには蘭先輩が止めを刺している。
残り三体は美邦先輩が倒していた。
「みんな怪我はない?」
顕嗣先輩の呼びかけに、みんな大丈夫だと答える。
マナストーンを回収して一息入れる。
「顕嗣、一年生は二人とも強くなったな。」
「美邦の言うとおり、順調に成長してくれてるよ。」
「うん、でも7層はあれが出る。」
「ああ、あれな。」
「あれは面倒だね。」
蘭先輩の言葉に美邦先輩と顕嗣先輩は顔をしかめた。
小休息のあと、パーティは再び動き出した。
宗人と透士は自信もついてきて、話しながらのんびり歩いていた。
しばらく進んだところで「斜め後ろ!」と蘭先輩が警告した。
はっと二人が振り返ると、二匹の蛇の魔物が首をもたげていた。
「キシャー!」
蛇が吐いた液を宗人はとっさにかわす。しかし盾を持っている分、動きが少し鈍い透士は避け損ねてしまって、剣を持っている右手に液がかかった。
すると透士の右手はみるみる紫色に腫れあがっていく。
たまらず透士は剣を取り落とした。
7層に出るLv5のポイズンスネークは、6層までにはいかなった状態異常攻撃を持っているうえに不意打ちしてくる厄介な魔物だった。
剣を落とした透士に蛇の牙が迫る。
「しっ!」
蘭先輩が投げたナイフが蛇を地面に縫い付ける。
「キュアポイズン」
顕続先輩が毒を回復する魔法を唱えると、透士の右手を緑色の暖かな光が包み込んだ。みるみる腫れがひき、毒が抜けていく。
その間に魔物は美邦先輩が倒す。
もう1体の蛇の魔物は宗人が火魔法と剣で倒していた。
「先輩たち、ありがとうございます。」
透士が頭を下げると、
「初見であれに対処できないのは無理もない。気にするな。」
「むしろ一人で何とかした宗人が異常。」
「状態異常攻撃を持った魔物と戦うときこそ治癒士の見せ場だからね。前衛はいつも体を張ってくれてるのに僕は何もできないときもあるから、お互い様だよ。」
先輩たちは口々に透士を慰めた。
だが透士は状態異常攻撃の厄介さと治癒士の重要さを痛感した。
マナストーンを回収して戻って来た宗人も「透士、大丈夫か?蛇の毒はやばいな。」と首を振っている。
もし治癒士がいなければ、今回なら毒消しを持ってくる必要がある。だが毒消しは回復魔法より効き目が遅いと言われている。
それに状態異常には他にも麻痺や魅了などいろいろ種類があるから、治癒士のいないパーティはいろんな回復薬を多く持ち歩かないといけない。
治癒士が人気のジョブというのはうなずける話だった。
それからコボルドやポイズンスネークと何度か戦った。
次にポイズンスネークと戦ったときは、今度は宗人が毒を受けて先輩に回復してもらった。
やがて、一年生二人のレベルは5に上がった。
蘭先輩の索敵スキルと顕続先輩の治癒魔法に助けられ、いざとなったら美邦先輩もフォローしてくれて、二人はレベルが上の魔物を倒し続けている。
その結果、短時間でレベルを上げることに成功した。
「二人ともレベル5に上がったか。良く頑張ったな。」
「美邦の言うとおり。」
「うん、ここまで順調に来ているよ。今日はもう帰ろうか。」
先輩たちの声に二人は緊張を解いた。
「こんなにすぐレベル5に上がれるとは思わなかった。先輩たちのおかげだな。」
「宗人の言う通りだ。これはパワーレベリングと言うべきだな。」
一年生の終わりまでにレベル5に上がっていれば十分と言われている。一月ちょっとでここまでくるのは異常といっていい。
それからパーティはなるべく戦闘は避けながらダンジョンを昇って行った。
2層への階段を上がり、地上も近いと思ったところで事件が起きた。
「キャアー!」
絹を引き裂くような悲鳴が聞こえた。
「何事だ!」
「こっちの方だ!」
声のした方に走っていくと、ダンジョンアイドルたちがゴブリンの集団に襲われていた。
集団にはゴブリンアーチャーまでいる。ダンジョンの魔物は自分の生まれた階層にとどまるが、まれに移動することがある。
弓使いの子が矢で牽制し、さらに短剣を振るうことでどうにかゴブリンたちの接近を防いでいるが、他の子たちは怖がっている様子だ。
しかも、少し離れたところにゴブリンにしては大きい魔物と、髑髏のようなものを首にかけたゴブリンがいる。
「あれはゴブリンナイトとゴブリンメイジ。」
「こんなところに出るはずのない魔物だが。」
「どうやら異常事態みたいだね。」
「私たちはゴブリンナイトとゴブリンメイジの相手をする。宗人と透士はゴブリンの集団を頼む。」
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