第8話 ダンジョンアイドルを救え
宗人と透士はダンジョンアイドルたちのもとに駆け出した。
先輩たちからは「今の二人ならゴブリンやゴブリンアーチャーに遅れを取るはずはない。それに透士は盾が使えるから探索者を守るのに向いている」と言われた。
二人だけで戦うのは初めてだが、先輩たちの信頼に応えたい。何より、とにかくダンジョンアイドルの子たちを助けないといけない。
走りながら宗人はファイヤーボールを放つ。
「グギャア!」
うまく不意がつけてゴブリンアーチャーの後ろ頭に命中した。倒れたゴブリンアー チャーは動かなくなり、マナストーンを残して消えた。
「ギギ?」
ゴブリンたちが振り返る。
宗人はもう1発ファイヤーボールを撃って注意を引き付ける。
その隙に透士はダンジョンアイドルとゴブリンたちの間に割って入った。
「大丈夫か?」
「はい。助けてくれるのですか?」
弓使いの子が返事をする。どうやらこの階層にいた他の探索者たちは既に逃げたようだ。
透士の動きに気づいたもう一体のゴブリンアーチャーが振り返って矢を射るが、盾で防ぐ。
ゴブリンたちはまだ5体いた。そのうち剣を持つ2体が宗人に向かってきて、透士とダンジョンアイドルたちにはゴブリンアーチャーを含む3体が攻撃してきた。
宗人は向かってきたゴブリン2体の攻撃をかわすと、すれ違いざまに1体の腕を切り落とす。
「グガア!」
剣を握ったゴブリンの手が宙をとんだ。
透士は飛んでくる矢を防ぎながら、近寄ってくるゴブリン2体の攻撃も盾と剣で受ける。
二人の活躍を唖然として見ていた弓使いの子は、じっくりと敵を狙えることに気付いて、弓を構えた。
「ヒュン」
風を切って矢が飛ぶと、狙いすました一矢は見事にゴブリンアーチャーの首に刺さった。
警戒すべきゴブリンアーチャーは倒れた。
これで矢を警戒しなくてよくなった透士は守りから攻めに転じる。
「シールドバッシュ!」
一体を盾で弾き飛ばすと、もう1体を剣で切り伏せた。
宗人のほうは1対1で向かい合ったゴブリンと数合打ち勝ってから切り倒すと、腕をなくして呻いていたゴブリンにも止めを刺していた。
盾に弾かれたゴブリンは逃げようとしたが、弓使いの矢が脚に刺さり、転んだところを透士が倒した。
ゴブリンがすべていなくなると、震えていた3人の女子は安心してへたり込んだ。
「良かった、助かったよう。」
泣いている子もいる。
ゴブリンは見た目が醜悪だし、こちらを殺す気で向かってくる。
2層にいないはずのゴブリンが6体で襲ってきて、しかもそのうち2体はゴブリンアーチャーだから怖かったのも無理はない。
弓使いの子は透士と宗人に近づいてきて頭を下げた。
「危ないところを助けて頂き、ありがとうございました。」
「いや、たまたま通りがかっただけだよ。」
「君はゴブリンを怖がっていないし、弓だけじゃなく短剣も使えるんだね。」
話してみると、ゴブリンに襲われていた女の子たちは南関東公立大の1年生と2年生だった。
「この恰好は恥ずかしいんですけど、ダンジョンアイドルならダンジョン奨学金がもらえて動画配信でも稼げるからと先輩たちに誘われて。」
弓使いの子は
南関東公立大は
大海嘯のせいで親を亡くしたり、親が失業したことで経済的に苦労している学生は多い。
お金のためにダンジョンアイドルをしている鳴多さんもその一人のようだ。
「お恥ずかしいことにダンジョン探索は1層と2層しかやってなくて。皆さんみたいに強くなれていません。」
「いや、浅い層であってもマナストーンは得られる。君たちはちゃんと社会の役に立っているよ。」
ゴブリンナイトの率いる集団を倒し、こちらに近づいてきた美邦先輩は鳴多さんたちを慰めた。
「それに鳴多さんは良い弓の腕をしているし、短剣も使えるのは凄いよ。近くでみると凄い美人だから、なるほどアイドルなんだなと思ったけど。なあ透士?」
「ああ、宗人の言うとおりだ。君は探索者としても才能はあると思う。」
宗人と透士が褒めると、鳴多さんは照れながら少し嬉しそうだった。
そのうちに3人も落ち着いてきて、口々に御礼を言った。
「ありがとうございます。」
「皆さんは命の恩人です。」
「愛ちゃんは勇敢に戦っていたのに、腰がひけてしまって恥ずかしいです。」
もしまた何かあるといけないので、彼女たちを地上まで送って行った。
ダンジョンを出たところでギルドの窓口に事情を説明した。
ギルド職員は2層にゴブリンが出たことに驚き、ゴブリンナイトがいたと聞いて、さらに驚いた。
職員は襲われたダンジョンフェアリーズが無事だったことを喜び、宗人と透士がゴブリンたちを倒して助けたことを聞くと、凄く褒めてくれた。あとで特別報酬も出るらしい。
寮に戻ってネットで調べたら、彼女たちはダンジョンフェアリーズという名前のアイドルグループで、最近人気上昇中のようだった。
確かに4人とも容姿のレベルは高い。探索者の女子ということを抜きにしても、普通にアイドルができそうだった。
中でも鳴多さんの美貌は際立っている。ネットをみると、やはり一番人気が高いようだった。
「あんな綺麗な子は見たことなかったから、人気なのも納得だな。」
寮のカフェでタブレットの画面を見ながら宗人が言うと、「そうだな」と透士も頷いた。
「どうだい、可愛い女の子たちを救った気分は?」
顕続先輩がやってきて悪戯っぽく笑った。
「そうですね。俺の盾で彼女たちを守れたことには手応えを感じました。」
「先輩たちのフォローがなくても戦えることが分かって、少しは強くなったかなと思いました。」
「おお、真面目な返しだね。うん。二人ともちゃんと強くなっているよ。」
………
伊勢の山中の隠された聖域で、老婆が星を見ている。
「この星の動きは、もしや既に介入があったか。」
驚いた様子を見せた後、冷静に戻って呟く。
「じゃが、堕ちた星はない。ということは、選ばれし者たちは無事であったか。」
老婆は遠い目をした。
「此度のことは小手調べのようなもの。この先、本当の試練が訪れるであろう。無事に乗り越えてくれると良いのじゃが。」
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