第6話 先輩たちの実力
先輩たちの変人ぶりを目にして、宗人と透士が少し不安になった次の土曜日、パーティでダンジョン探索をすることになった。
先輩たちは3人という非常に少人数のパーティでも、汐留ダンジョンの9層にまで到達していた。ただ最下層のボスを倒すのはリスクが大きいと考えて挑んでいなかったらしい。
「君たちが入ってくれたから、汐留ダンジョンをクリアできそうだよ」と先輩たちは喜んでいた。
そうはいっても焦ると危険だ。
最近は各ダンジョンの一階のギルド事務所にヒーラーが配置されているので死者は出ていない。
それでも探索者が大ケガをして治癒魔法でも治らず、障がい者になるケースは珍しくない。
だから、まずは宗人と透士のレベルを上げながら、5人の連携を図っていくことになった。「無理は禁物だよ」と言ったときの杼口先輩の表情は真剣だった。
「これからは互いに背中を預けるんだ。僕らのことも名字じゃなく、名前で呼んでくれるかい。」
宗人と透士は美邦先輩、蘭先輩、顕続先輩と呼ぶことにした。
汐留ダンジョンの4階は草原と雑木林が混在している。しばらく進むと「止まって」と蘭先輩が言った。
「右からファングボアが2体、左からゴブリンが3体来る。美邦は右、宗人と透士は左を。」
どうやら先輩は索敵スキルを発動したらしい。まだレベルが低いのに敵の数まで把握できるとは凄い。
ちなみに先輩たちのレベルは美邦先輩が6、蘭先輩と顕続先輩は5だった。
蘭先輩のおかげで、ゴブリンが攻撃態勢に入るよりも先に宗人と透士は仕掛けることができた。
それぞれが一体ずつ倒し、残る一体が振りかざす棍棒を透士が盾で止め、宗人が心臓に剣を突きさす。
「ゴブリンとはいっても3体いた。こんなに簡単に俺たちが倒せるとは思わなかったな。」
「ああ、蘭先輩の索敵スキルのおかげだな。」
宗人たちがゴブリンと戦っている間に、美邦先輩は一人でファングボア2体を仕留めていた。
「美邦先輩は強いな。」
「ああ。先輩を見てると、レアジョブなら強くてノーマルジョブなら弱いってわけじゃないことがよく分かるよ。」
「そうだな。俺たちはレアジョブを得たからって思い上がらないようにしなきゃな。」
マナストーンを回収してしばらく進むと、またファングボアとゴブリンが現れた。
今度は経験を積めるようにと、ファングボアは一年生の二人が任された。
探索者のレベルは見ることができるが、ゲームのように経験値は見ることができない。それでもマスクデータとして存在していると考えられている。
ファングボアはLV3の魔物だから、LV2のゴブリンよりも得られる経験値は多いはずだ。
パーティは4層のモンスターを難なく一蹴した。
一息入れて、これなら大丈夫だろうと先輩たちが判断して、5層に向かう。
宗人と透士にとっては、初めて入る階層だ。
「5層にはゴブリンアーチャーが出るんだ。遠距離攻撃する敵は初めてだろうから、気を付けて。」
顕続先輩にアドバイスされて、二人は気を引き締めた。
5層も4層と同じ草原と雑木林のフロアだ。
だが、雑木林が近づいたところで、「右手の雑木林にゴブリンアーチャー三体。気を付けて」と蘭先輩は警告した。
間もなく矢が飛んできた。美邦先輩は槍を少し動かして矢を打ち落とし、透士は盾で矢を防いだが、宗人は矢を剣で切り損ねてしまった。
「うおっ!」矢を左腕に受けた宗人は、痛みに顔をしかめながら右手で矢を抜いた。
動脈は逸れていたから出血は酷くないが、このままだと右手でうまく剣を振るえない。
「ヒール」
宗人の後ろから落ち着いた声が聞こえて、淡い光が左腕を包んだ。
すぐに傷がふさがり、痛みも治まる。
「先輩、ありがとうございます。」
後ろの顕続先輩に御礼を言うとすぐに宗人は矢が飛んできた方向に向かって走り出し、牽制のためにファイアボールを撃つと、慌てているゴブリンアーチャーに接近して剣で切り倒した。
寮に戻り、カフェで宗人と透士は今日の感想を話した。
「やはり先輩たちは強いな。」
「ああ、実力者揃いだな。そもそも三人パーティで汐留ダンジョンの下層を攻略していたことがおかしいんだ。この掲示板は半年くらい前のものなんだけど、見て見ろよ。」
透士のタブレットを宗人は覗き込んだ。
………
スレッドタイトル「汐留ダンジョンにおかしなパーティがいた」
1:名無しの探索者
俺さあ、汐留ダンジョンの7層に行ったんだけど、3人パーティの奴らがいたん
だよね。
2:名無しの探索者
えっ、3人?汐留の1層とか2層限定ならあり得なくもないけど。7層だと状態異常攻撃もあるよね。そいつら全滅しかねないな。
3:名無しの探索者
そう思うよな。ところが余裕で攻略してたんだ。まず前衛の戦士の鎗使いが半端ない。一振りで魔物二体にダメージを与えるとか、びっくりだぜ。それに後衛の治癒士がなぜか剣を振るってるんだが。
4:名無しの探索者
治癒士が杖じゃなく剣を振るうとか理解できないんだが。
5:名無しの探索者
<<4 分かりみが深い。
6:名無しの探索者
まだおかしいことはあるぜ。もう1人はレアジョブの斥候みたいなんだが、どの方角からどんな魔物が何体来るか分かるみたいなんだよ。
7:名無しの探索者
何それ、怖い。索敵スキルって普通、こっちの方角から魔物が来るみたいって分かるくらいだよな。
「そうか、先輩たちの強さは異常なんだな。」
「ああ、俺たちは変人パーティに入ったかもしれないが、実力者パーティに入ったことも確かだ。自分の成長を考えれば良い選択だったと思う。」
「それにしても、なんで3人だけでパーティを組んでたんだろう。」
「さあな、それはよく分からん。」
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