第5話 変人パーティに加入?

 4月も半ばになり、帝都大ダンジョン部では新入生が加入するパーティを決め始めていた。

 上級生たちは自分たちのパーティが必要とするジョブを持っていたり、将来伸びそうな新人を勧誘しようとする。

 新人たちも、どのパーティに入るのが良いか、雰囲気重視なのか戦闘力重視なのかなど、いろいろと考える。

 プロスポーツのドラフトではないけれど、ダンジョン部にとっては賑やかな時期だ。

 その日も宗人と透士が寮の食堂で夕食をとっていると、部活の先輩たちが勧誘にやってきた。

 宗人は剣術と攻撃魔法が使える魔法戦士、透士は回復魔法が使える前衛である騎士と、二人ともレアジョブなので、このところ二人はよく声をかけられている。

 「良かったら考えておいてくれないかな」という先輩たちに「考えておきます」と二人は応じた。

 「ふう、最近は勧誘が多いな。」

 「ああ、俺も宗人もレアなジョブだからな。勧誘されるのも無理はない。」

 「そんなもんかな。でも、そろそろ『考えておきます』じゃ済まなくなるよな。」

 「そうだな。」

 透士は食後のコーヒーを一口飲むと、声をひそめて宗人に聞いた。

 「で、お前はどこのパーティがいいと思う?」

 「俺は本田先輩のパーティがいいと思ってる。」

 「なるほど。俺たちは先輩のピアノに恩があるな。」

 「俺は初ダンジョンで同行してもらった恩もある。」

 「ああ、そうだったな。」

 透士は少し考えてから口を開いた。

 「うん、本田先輩は強いな。あの槍さばきはちょっと別格だ。それに信頼できる人だしな。よし、本田先輩のパーティに入るか。」

 少し前から、二人は同じパーティに入ろうと話していた。

 一つのパーティに一年生が二人以上いると、ダン学連の新人戦に参加する資格が得られることも理由の一つだ。

 二人とも、高校生のときにはオンライン中継の新人戦をわくわくしながら見ていた。

 本田先輩にパーティについて話を聞かせてほしいと頼んだところ、喜んですぐに手配してくれた。

 寮の共用棟のカフェで本田先輩からパーティメンバーを紹介してもらう。

 「おお、君たちが話題のレアジョブの新入生かい。僕は二年生の杼口。ジョブはヒーラーだよ。よろしくね。」

 挨拶してくれた杼口顕続ひぐちあきつぐ先輩は、細身で眼鏡をかけていて、いかにも育ちの良さそうな雰囲気を持っていた。

 杼口先輩は治癒士という普通のジョブだが、なぜか剣もかなり使えるらしい。本田先輩は「顕続は戦う治癒士なんだ」と謎の発言をしていた。

 本田先輩のパーティメンバーは、もう一人いる。

 「私は二年の風波。ジョブは斥候。よろしく。」

 風波蘭かざなみらん先輩は小柄で目立たない雰囲気だった。長い前髪をおろしているので表情もよく見えない。

 斥候は戦士スキルの一部と盗賊スキルの一部が使えるレアジョブだ。

 本田先輩によると「蘭の索敵は凄い」らしい。

 「私たちはこの3人でパーティを組んでいるんだ。前衛が私、中衛が蘭、後衛は顕続なんだが、鷹羽君は私たちの使えない攻撃魔法が撃てるし、伊達君は盾が使える前衛だ。二人が入ってくれると随分バランスが良くなる。」

 「はい、俺たちは本田先輩のパーティに入りたいと思います。」

 「本当か?嬉しいな、歓迎するよ。」

 本田先輩は満面の笑顔だったが、なぜか杼口先輩は嬉しそうな、でも困ったような顔をした。

 「えっと、二人ともうちのパーティに入ってくれるのかい。それはすごく嬉しいんだけど…。」

 杼口先輩は宗人と透士の近くに来て耳元で小さい声で言った。

 「美邦みくにも蘭も良い人なんだけど、何というか、少し変わったところがあるんだ。君たちが慣れてくれると良いんだけど…。」

 美邦は本田先輩の名前だ。パーティのメンバーはたいていファーストネームで呼び合う。命を預ける仲間を名字で呼ぶのは他人行儀な感じがするからだ。

 宗人も透士も、きりっとして真面目そうな本田先輩が変人と聞いて、どういうことだろうと首を傾げた。


 翌日の夜、先輩たちは寮の食堂で二人の歓迎会を開いてくれた。

 飲酒は20歳からがルールだが、探索者は身体能力が高くて酔いにくく、危険な役割を果たしていることもあって飲酒が認められていた。

 「かんぱーい!」

 ビールのジョッキを掲げる。

 しばらくは普通に話していたが、しばらくすると本田先輩の様子がおかしくなった。

 普段はクールなのに、笑うときに「あははは」とか言い始めた。

 そして唐突に「君たちは布団を好きか?」と聞いてきた。

 宗人と透士は意外な質問に固まった。

 「好きなはずだよな。よーし、じゃあ私が布団の愛で方を教えてやろう。」

 どうやら本田先輩は布団が大好きらしかった。いかに布団が素晴らしいか熱弁を振るい、それから洗い立ての布団カバーの味わい方、洗濯してから何日か使って馴染んだ布団の味わい方など、時期に応じて布団をどのように愛でるべきかを解説し始めた。

 本田先輩は熱く語る。そして話は終わらない。

 どうにか二人が本田先輩から逃れると、今度は風波先輩につかまった。

 「二人とも飲んでる?」

 こちらも普段の無口な感じとは別人みたいだ。

 「ところで二人ともキノコは好き?嫌いなはずないよね、好きだよね。」

 二人とも先輩の圧力に負けて小さく頷く。

 「じゃあお姉さんがキノコの話をしてあげよう。」

 先輩はキノコの素晴らしさについて話し始めた。

 延々と話は続く。話が長いだけじゃなく、きちんと聞いていないと怒り出す。

 杼口先輩が割って入ってくれて、ようやく二人は解放された。

 変人の多いと言われるT大ダンジョン部でも先輩たちは際立っていて、本田先輩が「布団の伝道師」、風波先輩は「キノコの伝道師」という異名を持っていることを二人は後で知った。

 どうやら変人パーティに二人は入ってしまったようだ。


 宗人と透士の歓迎会?の翌日、杼口先輩は帝都大ダンジョン部の部室を訪ねていた。

 「そう、レアジョブを得た一年生ルーキーの2人は君たちのパーティに入ったんだね。」

 「はい、部長。」

 「風波君は大丈夫だったの?」

 「ええ、蘭は鷹羽君も伊達君も平気なようです。昨日飲み会をしたら二人に絡んでいたくらいですから。」

 「へえ、あの人見知りが激しく、警戒心の強い風波君がねえ。」

 部長は興味深そうに笑った。

 「これで5人。ようやく本格的な探索ができそうだね。君たちは3人とも高いポテンシャルを持ってるけど、流石に3人パーティだと限界がある。」

 「そうですね。汐留のボスに挑むのはリスクが高いと思っていました。」

 「うん、二人を鍛えればボスに挑めるよ。これまで組める相手が見つからなかったけど、一気に二人も有望なメンバーが入って良かったね。」

 これからの活躍を期待していると部長は嬉しそうに言った。


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