残された者達③

「……それは」


誰もが歯切れが悪く目を逸らせた。


彼の気持ちには答えたいものの、この状況では危険な橋は渡れない。


仕方ないがないとは思う反面、自分ではその言葉を口にしたくない。


「なあ?」


他の誰かがそれを言ってくれることを期待して、互いの表情を探り合っていた。


一体、どうなってしまうのか……。


そんな地獄のような空間に耐えきれず、ここから逃げ出したいとまで考えてしまった頃。


「そやつらを助けに行こう」


よどんだ空気を打ち破るようなりんとした一言が、この場に響き渡った。


「は?」


その声の主は


「私と一緒に来る者はついて来い」


既に店を出ようと、この場に背中を向けるシーファ。


「ちょ、ちょっと待って」


驚いたヒロカが呼び止めるも、彼女は少し振り返り顔をしかめるだけだった。


「どうした。早くせんと、その男の仲間達が助からんぞ」


さも当然という風に言われ、その場の誰もが戸惑ってしまう。


「だ、だから」


最初に声を出したのはキャンディ。


「もしモンスターに負けたらどうなるか分からないから、皆 手出ししないようにって……」

「なら、それをいつまで続けるつもりだ?」


言いつのる言葉を切り捨てたシーファに、場の空気が凍りついた。


「え?」

「確かに、得体の知れぬ地球外生命体と相まみえるのは勇気のいることだ。本来なら接触を避けるのが安牌あんぱいだろう」


一人一人の顔を見つめ発せられる言葉は明瞭めいりょうだ。


「それなら」

「しかし、そうやって ずっと逃げ続けることが果たして可能だろうか?」


その問いかけに、皆の顔つきがハッとしたように固まる。


本当は、その疑問は全員が心の中に抱えていたものだった。


危険は避けて通るに限る。けれど、クダラノに閉じ込められ いつ出られるか分からぬ状態でいつまでそれが通用するのか……。


「いつかは戦う時がくる」


うつむいたカーラの呟きのように、いづれは向き合わなければならない現実。


多分、そう遠くはないうちに。


「それなら、先にこっちから打て出てやろうってことか」


アカネの言葉にシーファはこくりと頷いた。


「どうにもならなくなった場面で闇雲やみくもに戦うより、用意を整え徒党を組んだほうが有利なのは間違いないからな」


それは俺などでも分かる簡単な理屈。


絶体絶命で無策の個人と、準備万端な複数人。どちらが勝てる確率が高くなるのかは一目瞭然だ。


「でも、そんな準備も作戦も意味がないほど敵がヤバい奴だって可能性もあるだろ?」


(多分)武器屋の店主の反論に、シーファは指を当てた顎を少しかしげげたが


「いや、実はそうでもないと私はみている」


やけに自信がありそうにそう答えた。


「どういうことだ?」


「お主、この町の外でモンスターと遭遇したと言ったな? その形態やレベルはどうであった?」


そして聞き返された声には答えず、彼女は床に膝をついたままのボーテさんへと視線を向ける。


「あ、それは……」


急に話を向けられ戸惑ったものの、冷静さを取り戻した顔は先刻の出来事を思い出すよう考え込み


「特に、今までと変わりはなかったように思う」


はっきりと告げた。


「えっ? これまでのクダラノのモンスターと全く同じってことっ?」

「宇宙人の姿とかしてるんじゃないの?」


口々に驚きの声があがるが、ボーテさんは首を横に振る。


「何匹か見たけど、姿かたちも変わらないし、スカウターにも今まで通りレベル5と表示されていた」


それは、俺達にとっては予想外の情報だった。


「それなら、これまでと同じように普通に勝てそうじゃない?」


そう呟いたのはミドリコ。


確かに その話だけを聞けば、逃げずに戦えたのでは?と思えてきてしまう。


それまでのかたくなな店内の雰囲気に、亀裂がしょうじるのが感じられた。


「私が思うに、このクダラノは元々そういうつもりでつくられていたんじゃないだろうか」


そんな中で口を開いたシーファに皆の注目が集まる。


「そういうつもり?」

「あの偉そうなおっさんの話では、クダラノは最初から襲来する敵から地球を守る目的で作られた。それなら、その敵を閉じ込めた後のことも考えていたはずだ」


つらつらと展開される予測に、俺は隣のカーラとキャンディと顔を見合わせる。


「つまり、この状況も想定されて対策がされているはず……だと?」


少し自信なさそうに言ったキャンディにシーファはニヤリと笑った。


「それが自然だと、私は思うということだ」


その回答を受け、少し考え込んだキャンディだったが


「まあ、そのほうが色々と説明はつく気がする」


彼女もその意見に同調の姿勢をみせた。


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