残された者達②
別に、深い意味などない独り言なのかもしれない。
それでもミステリアスな彼女が言うと何かが隠されているような気がしてきてしまう。
「そ、それは」
「助けてくれっ!」
何かを答えようとしていた俺の言葉は、突然 乱入してきた声によって遮られた。
「え?」
弾かれるように誰もが店の出入口へと視線を向ける。
そこには、絶え絶えの息をしながら戸にすがりつく青年の姿があった。
「ボーテさんっ」
彼を知っているのか、ミドリコとアカネが駆け寄ってよろける体を支える。
「どうした、何があった?」
ただ事ではない様子に、それまで店の一番奥でパイプをふかしていた中年の男(雰囲気からするに多分ここの主人)が立ちあがる。
「ぼ、僕達、あの放送の時エリア16にいて。それで、急いで、町に帰らなくちゃって、タイカさんが言って。急いで、ここに向かってて」
かなり
そんな様子からするに、彼とここの人々とは元々の知り合いなのだろう。
「そうしたら、途中でモンスターに出くわして」
そんな一言に、誰からともなく悲鳴のような短い叫びがあがる。
「今、このクダラノ内でモンスターっていえば……」
言いかけたキャンディが言葉を止め、周囲が静まる。
そう。例の地球外生命体、未知の敵、侵略者……そう呼ばれるものであるはずだ。
「大丈夫だったのか?」
「僕達も戦わずに逃げようと思ったけど、途中で気づかれて追い回されているうちにバラバラになってしまって」
暗い声で語られる内容に、集まった顔が青ざめてゆく。
「じゃあ、タイカさんとビクトリアさんとアビーは」
ミドリコが上ずった声で詰め寄る。
「まだ、町の外で身を隠しているはずだ。僕だけモンスターの目を逃れて、ここに辿り着けた」
そこまで話すと、ミドリコの腕を強く
「頼む、助けてくれ。このままじゃ、タイカさん達がどうなるか……っ」
その先を言えない声に、答える者はいない。
ここまでを見てくれば、この世界の知識が
普通ゲーム内にはモンスターという存在がいて、プレイヤーはその敵を倒すことでレベルアップしたり展開が進んでゆく。
しかし現在のクダラノでは、襲来した宇宙人を封じ込めたため元からいたモンスターはそいつらに置き換わってしまっている。
今 分かっていることはそれだけだが、国連の偉い人の話を総合するに宇宙人達はかなりヤバい奴等ということに間違いない。
つまりは、ゲーム内に出現するモンスターと戦うことはそういう危険と真っ向から
そんなのと関わりたくないと思うのは当然の心理だろう。
なんせ相手は未知の高度生命体。俺達が思いもよらぬチート能力や反則技を持っていたって不思議ではないのだ。
「そいつらと戦って もし死んだとしたら、どうなるかは分からないんだよな」
そして、誰かが窺うように呟いた。
「どういうことだ?」
重苦しい空気の中で素直に疑問を口にした俺に、皆は呆れたような視線を向けてくる。
「このクダラノでは、モンスターや他プレイヤーに負けてHPが0になると基本的には死=ゲームオーバーとなるんです」
そんな中、丁寧に説明をしてくれたのは やっぱりカーラだった。
「そして、ゲームオーバー=強制ログアウト。要はこの仮想現実から現実世界に追い返されるってこと」
後を継いだミドリコの説明で、何となく彼等がこんな顔をしている理由は分かった。
「今まではゲーム内で死んでも現実に戻されるだけだった。でもその繋がりが絶たれた今ではログアウトの扱いがどうなるか分からない、ってことか?」
我ながら上手くまとめられたと思った要約に、人々は頷く。
「元々、クダラノは精神と肉体をこっちの世界に転送することで成り立ってる。その前提が壊れてしまうと……」
キャンディは言葉を途中で止めたが、言いたいことは分かる。
行き場のない精神と肉体がどこへいってしまうのか、誰も知らない。
下手をしたら、そのまま消滅とか未来永劫どこかを
何が起こるか分からない状況なら、人間は最悪の想像をして身構えてしまうものだ。
そういった状況からも、プレイヤーである皆が及び腰になってしまうのは仕方がないと思われた。
「……それじゃあ、うちのパーティーはどうなるんだよ!」
その雰囲気を感じ取ったのか、ボーテさんが絶望の表情で周囲を見回す。
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