残された者達①
「アタル、遅い」
あの国連の偉い人の放送を聞いた後、俺は皆に連れられて近くの町へと来ていた。
“トリアエズの町”というふざけた名前だが、人や店は多く、かなりの規模らしい。
先頭のアカネはトボトボ歩く俺を睨みながら、迷わず大通りにある新しい建物へと入って行った。
「おう、お前らも閉じ込められたのか」
そこは武器屋のようで、見回せば木製の壁やカウンターには所狭しと剣や斧、槍なんかが置かれている。
奥には少し広めのスペースがあり、既に10人ほどの人達が集まっているようだった。
「笑ってる場合じゃないでしょ」
持っていた刀を外しながらミドリコがいかつい中年の男に向かって
この雰囲気からして、きっと前々からの知り合いなのだろう。
「そうは言っても、
それに答えるのは、椅子に座り木のグラスでのんびり何かを飲んでいる白い
「そうそう。幸いにも現実世界の情報は入ってくるし」
「今のところ、町の中にいれば敵は襲ってこないようだしな」
明るく交わされる言葉に、それまで不安だけが先行していた俺達は互いの顔を見合わせた。
「ま、まあ確かにそうだけど」
「パニックになっても良いことはありませんしね」
すると、さっきまでオロオロとしていたキャンディとカーラも急に訳知り顔で語り出す。
そんな様子に、俺を含めた他のメンバー達もそれまで張りつめていた緊張が解けてゆくのを感じた。
人間というのは、案外
『
店内の壁には現実世界のものと思われる映像が映し出されており、画面の中の黒人の女性アナウンサーが冷静な声でそう告げていた。
「あ、リアルのニュース見れるのね」
「ああ。向こうじゃ特にパニックは起きてないようだな」
身を乗り出したヒロカに、集まっていた男の一人が言う。
「そりゃ、そうだろうよ。あっちの生活は何も変わらないんだから」
その隣にいた中年女性の投げやりな言葉は、この場の誰もが内心思っていることだろう。
「まあね。その敵は、全部こっちに押しつけられてるんだから」
「例え宇宙人が攻めてこようと、自分達に被害がなければ どうでも良いっていう人間が大半だろうよ」
誰ともなく口にして、皆が黙り込む。
それは
『この件についてアンケートを実施したところ、クダラノを犠牲にする判断を支持すると回答をした人の割合は69%と多数でした。しかし、クダラノに取り残されたプレイヤーの家族達は、一刻も早い解放を求めるとして抗議活動を……』
まだまだ続くニュースの声を何となく聞いていると、あの老人が俺達のほうへと顔を向けてきた。
「ところで。お前達、クダラノに閉じ込められたことを家族は知っているのか?」
そんなことを言われ、はてと首を傾げる。
「あー、うちは知ってる」
「私も、姿が見えないときはクダラノにいると思われてますから」
「私もママに言ってあるけど、心配してるだろうなあ」
口々に交わされる言葉の意味を
「あ、そうそう。こいつ、記憶がないんだよ」
俺の背中をバシッと叩いたアカネが、大声でそのことを暴露しやがった。
「は? どういうことだ?」
当然ながら、集まった面々から注目を浴びてしまう。
「なんか、ネタバレ絶許システム? とかを使ったらしくて」
「ああ、あれか。本当に使う奴なんているんだな」
「都市伝説かと思ってたぜ」
皆から次々に言われるが、どの顔も呆れと苦笑というかんじで当然ながら良い気分はしなかった。
「本当、馬鹿なんだから」
そして またしても俺はアカネにため息をつかれたのだが。
「記憶を失くそうとした理由は分かっているのか?」
ふいに かけられた老人からの声に、背中に何かゾワリとした気持ち悪さが走った気がした。
……理由。
どうして俺は、誰もが不可解に思う記憶を消すなんていう不要な行為を行ったのか。
本来、それには何かしらの理由があるはず。
なのに、どうしてか それを考えようとすると嫌な感覚が頭を
まるで、それに触れることを拒むかのように。
「さあ。こいつの考えてることなんて分からないよ」
俺の様子に気づかないアカネは、相変わらず能天気に笑っているが
「でも、その機会は永遠に失われてしまったかもしれない」
低く呟かれた声の方向に、皆が一斉に視線を向ける。
部屋の隅では、シーファ一人が静かに一堂を見渡していた。
「彼から理由を聞く前に、ここから出られなくなってしまったからな」
その意味ありげな物言いに、どこか不穏な空気が流れる。
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