トップランカー②
声は揃ったものの、同時に二つのため息が吐かれる。
「でも、アマテラスは今の時点でクダラノにログインしてない」
「そうみたいね」
スィーティーの言葉に、インティは目の前に映像を映し出した。
「私も連絡を入れているけれど、ランク10まででログインが確認できるプレイヤーは私とスィーティーをいれて5人。No.1のアマテラス、No.3のシュヴァート、No.4のキラは不在のようだわ」
上位ランカーのログイン状態がまとめられたデータに、スィーティーは小さく身震いした。
「それって。もう ここへは来ないってこと、だよね」
「どうして、そう思うの?」
しかし、逆にインティは首を傾げている。
「だって、運よくクダラノに閉じ込められずに済んだんだよ。普通なら安全な現実世界に居続けようって思うじゃんっ」
当然とばかり喚く友人を、今度は虹色の瞳が見つめ返した。
「私は、そうは思わない」
「え?」
「だって、この状況で もし自分がリアルにいたとしたら……どうする?」
尋ねられ、ウサギの耳がピョコンと跳ね上がる。
「そ、れは」
「私もきっと迷う。でも、少なくともクダラノを全部忘れて何事もなかったように生活するなんて出来ないと思う」
「……他の皆も同じだと?」
「そう信じてる」
それが心からのものか、強がりかは分からない。
しかし、それまで揺れていたスィーティーの心に勇気を与えるきっかけにはなったようであった。
「……じゃあ、私も信じてみるかな」
呟かれた言葉に、やっとインティの表情にも笑みが浮かぶ。
「そもそも、あのクダラノ大好き野郎達がこんな祭りに黙ってる訳ないもん。きっと すぐにログインしてくるよ」
吹っ切れたのか、いつもの元気が戻ったスィーティーが肉球の手を振り上げた。
「そうね。キラはちょっと時間がかかりそうだけど。アマテラスとシュヴァートは早めに駆けつけてくれるかしら」
それに呼応するインティの独り言に、ピンク色の肉球を宙に浮かせたままスィーティーは不思議そうな顔をした。
「どうして、キラは時間がかかるって思うの?」
何気なく聞き返すと
「だって、キラってリアルにどこかの国の王子様でしょ?」
サラリと返ってきた答えに、スィーティーは全身を
「ええぇっ、嘘でしょ!?」
椅子からひっくり返りそうになるが、インティは極めて真面目な顔をしている。
「まあ、私もはっきり教えられた訳じゃないけど」
「じゃあ、なんで知ってるのよ」
「なんとなく?」
にっこり微笑まれ、スィーティーは存在しないはずの冷や汗が背中を流れた気がした。
「ほ、他の皆のことも……?」
「といっても、大体のことしか分からないわ」
「いやいや、大体でも分かるのがすごいって!」
思わず、ブンブンと頭を大きく振る。
「そうかしら。普段の会話や仕草から宗教観や死生観、文化的・地域的特色、習慣や行動なんて嫌でも見えてくる。そうすれば年齢や性別、住んでる地域、社会的立場を推測するのは難しくないわ」
すらすらと語るインティを見ながら「私の本体のことも……」と、口にしかけてスィーティーはやめておいた。
言ってもいない自分の正体を見破られていたら、それは怖すぎる。
「アマテラスは、確か学生だっけ?」
「ええ、シュヴァートも一般的な社会人みたい」
当たり前のように個人情報を特定している件には触れず、スィーティーは映し出されたままのデータに目を向けた。
「あの会見はリアルでも全世界に向けて放送されているはず。今が夜中の地域だったとしても、あと何時間かでこのニュースを知ることになる」
主要プレイヤーが集まってくるのは、クダラノの時間でおおよそ半日後だろうと目安をつけた。
「それまでに、出来ることはやっておきたいわ」
インティも同意見だったようで、言うが早いか
「クダラノ全域に向けて呼びかけをするとか?」
「それも大切だけど、そういうのはアマテラスに
話しながら客間の扉を出てゆく背中をスィーティーは追いかけた。
「じゃあ、私達は何をするの」
海中の廊下を抜けて城から出ると、中庭にはトビウオのような形をした使い魔が主を待っていた。
「……クダラノがこんなことになって、一つおかしいと思わない?」
突然、前を歩いていたインティは歩を止める。
「おかしいって、既にこの状況の全部がおかしいよ」
「確かに」
「でも、あの国連の事務総長がクダラノについて言っていたこと覚えてる?」
逆に問われ「んー?」と
「そういえば、協力者がどうのって」
記憶を呼び起こしながら首を捻るスィーティー。
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