来訪者③

「なるほど、決まりだな」


うんうんと一人頷くシーファに、皆がその真意を聞こうと前のめりになったのだが。


「ところで、お主らの名を教えてもらえるか? このままだと私も話がしずらい」


急に話の方向を変えられ、少し鼻白はなじろんだ。


しかし、確かに客人にだけ名乗らせるのはよろしくないだろう。


「私はミドリコ」


まず口を開いたのは、テーブルで俺のはす向かい座った青髪の子。


この長方形のテーブルには、いわゆるお誕生日席にシーファが一人で腰かけ、彼女から見た左手側に黒頭巾、俺、カーラ。右手側に赤髪、黄色髪、青髪が座っていた。


向かい側はまるで信号機みたいだなと下らないことを、こんな時なのに思った。


「私はヒロカ」

「うちはアカネ」


黄色髪と赤髪が順番に自己紹介をする。


「私はカーラといいます」

「ボクはキャンディ」


俺の左から金髪の女性、右からは黒頭巾の幼女がそれぞれ自己紹介をした。


「あ、俺は……」


気がつくと最後になってしまい少し慌てたが。


「アタルだろう? さっきから そう呼ばれていたからな」


シーファに興味なさそうに言われ、安堵しつつも少し複雑な気持ちになった……。


「さて。このアタルの様子がおかしいというのが、お主らが疑問に感じているところだな?」


改めてテーブルに集まった面々を見回すシーファに、それぞれが顔を見合わせる。


「おかしいというか、違和感ってかんじなんだよね」

「間違いなくアタルなんだけど、中身の一部だけポッカリ抜け落ちたみたいな」

「口調とか癖は変ってないもんね」

「でも、前に自分が言ってたこと忘れたりしてるんだよ」


まるでせきを切ったように、彼女達は一斉に喋り出す。


この勢いからするに、今までよほど不信感を溜め込んでいたのかもしれない。


「私が思うに、それは こやつがネタバレ絶許システムを使用しているからだあろう」


そんな喧騒けんそうに被せるようなシーファの一言に、室内は水を打ったように一瞬静まり返った。


「ネタバレ、絶許?」

「あれ? なんか聞いたことある」


互いに首を傾げあっているのは、ミドリコ、ヒロカ、アカネと名乗った少女達。


逆に、俺の両隣の2人は何かにハッとした様子だった。


「確かに、それなら今までの変化にも説明がつくけど……」

「でも、いつの間に。そもそも、どうして?」


黒頭巾のキャンディと金髪のカーラが丸くした目を俺に向けてくる。


「ネタバレ? え?」


全員から睨むような視線を向けられるが、当然 俺に心当たりなどない。


まさか、知らない間に何かやらかしてしまったのか?


「とりあえず、アタル」


すような声を出したカーラが、俺の目をじっと見つめる。


「ステータスウインドウを開いてください」

「ステー……?」

「開くと念じるだけで目の前に現れるはずです」


そう教えられ、半信半疑ながら言われた通りにやってみると……


「あ、出た」


よくアニメなんかで見る画面が、突然 俺の視界に出現した。


「嘘でしょ。それ私達に教えてくれたのアタルじゃん」


ヒロカに怒られたが、俺にそんな記憶はない。


「まあまあ。それで、設定のところから、特殊機能ってとこに進める?」


キャンディに言われたままカーソルを意識の中で移動させると、確かにその通りの文言が出てくる。


「その中で『限定的関連情報及記憶消去システム』って項目がない?」

「限定……なんだって?」


『特殊機能』の中にも色々な言葉が羅列られつされていて、そんなことを言われてもすぐには見つからない。


しかし。


「……あ、あった」


文字列の真ん中くらいに、確かに『限定的関連情報及記憶消去システム』という一行を発見した。


「その右側にチェックボックスがあると思うけど」


うかがうように尋ねるキャンディ。


視線を右に移せば、確かにONとOFFという2つのボックスがあり。


「ONにチェックが入ってる」


見たままの映像を、俺は素直に口にした。


「はああ~?」

「どういうことですか」


その途端、悲鳴にも似た声をあげたのは当のキャンディとカーラ。


「え、どうしたの?」

「何かヤバいのか?」


逆にミドリコ、ヒロカ、アカネは俺と同じように訳が分からず戸惑っているという風であった。


「知らない者のために説明すると」


人差し指をたてたシーファが語り出す。


「このクダラノには、中々に多彩なシステムや機能が装備されている。この限定的関連情報及記憶消去システム、通称ネタバレ絶許システムもその一つだ」


つらつらと言われるが どれも初めて聞いた単語ばかりで、きっと俺は間抜け面を晒しているに違いない。


……けれど、何故かその先の答えを知っているような。そんな不思議な感覚に、どうしてか ふいに襲われた。

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