来訪者②

「いやあ、何かちょっと具合が悪いっていうか……」


誤魔化ごまかす言葉すら分からず頭をかく俺の元に、黄色髪の少女がズンズンと近づいてきて腕をつかむ。


「なにそれ、もしかしてアバターの不具合とか?」

「いや、それは……分からんけど」


下から覗き込まれるように見られ、思わず目を逸らした。


「ああ、なんかリアルの世界でも彗星の影響で電磁波? がなんとかってニュースでやってたし」


すると予想外に赤髪の子が助け舟を出してくれた。


「そうなんですか?」

「そうそう。電子機器とかに影響あるかもって」

「でも、それってもっと彗星が近づいたらでしょ?」

「それに、アタルがこうなったのは今日が初めてじゃないですし」


なんだか目の前でやんやと始まる言い合いに、気が遠くなった。


一体全体どうして俺はこんな所にいるのだ……?


いっそ、記憶が全くないことを正直に話したほうが良いのか迷ったが


「とりあえず、ギルドに行って相談してみましょう」


金髪の女の人が言った言葉に顔を上げた。


「は?」


「そうだね。他にも同じ症状のプレーヤーがいるかもしれないし」

「聞くだけ聞いてみるか」


俺本人の知らないところで、勝手に話が進んでゆく。


「いや……」

「ほら、さっさと行くよ。アタル」


そうして断る自由さえ与えられず、俺は強引に体ごと家の外へと引っ張り出されていた。



 「だから、なんか今までと違うかんじで、こうボーっとしてて、忘れっぽいっていうか」


ギルド。と呼ばれたやけに大きなやけに人の多い建物に着くと、カウンターの受付のお姉さんに黄色髪の子は一生懸命に説明を始めた。


しかし あまり相手にはされていないようで、お姉さんも周囲の人達も微妙な笑みを浮べているだけ。


「それは、寝ぼけているとかじゃないでしょうか?」

「違います! あ、でも確かに元々ボケっとしてるとこはありますが……」


お姉さんの問いにちょっと考え込んだ金髪の女性が、思い当たる節があったように言い直す。


俺は普段そんな風に思われているのか?


「とにかく、他にそういった事例は報告されてませんし、運営から通達などもないので……」


というかんじで、言葉は丁寧にだが俺達はあっさり追い返されてしまった。


  「もう、絶対ヘンなのに」

「やっぱりアタルの脳みそのほうがおかしくなったんじゃないか?」


その後。場所をギルドの食堂に移し、諦めきれない彼女達は料理を前にそんな会話を続けていた。


本人が何か言うこともないので、俺は黙って山盛りステーキをひたすら食べていると。


「もし」


テーブルの横からかけられた声に、皆で顔を上げた。


「なにか、ご用ですか?」


見れば、そこには19~20歳くらいの女が立っている。


「実は、さっきお主らのカウンターでの話を聞いてだな」


喋り方に癖があるが、長い紺色の髪に涼し気なワンピース姿という中々に可愛らしい見た目のアバター? だ。


「え、何か知ってるんですかっ?」


フォークを握りしめたまま俺の向かい側に座った黄色髪が身を乗り出す。


「ああ、思い当たるものがある」


顎に手を当ててニヤリと笑う顔。


俺には明らかに胡散臭うさんくさい気がしてならないのだが、他の3人は興味津々しんしんといった様子だった。


「なんだよ、教えてくれよ」


同じくフォークとナイフを持ったままの赤髪に勢い込んで尋ねられ、相手もまんざらでもないかんじだ。


「いいだろう。だが、ただでという訳にはいかない」


その不敵な笑みに、俺などは嫌な予感がビンビンしたが。


「そうだな。お主らのホームで話しをさせてもらおうか」


少し細められた濃紺色の瞳は、何か意味ありげに俺達4人を見回していた。



 最初の家に戻ると、更に見知らぬ青い髪の少女と黒い頭巾を被った幼女が増えていた。


俺と一緒に帰ってきたメンバーが軽く事情を話すと、ギルドからついてきた紺色の髪の女が「私はシーファという者だ」と名乗りゆったり頭を下げた。


「それで、シーファさん? はアタルがポンコツになった理由に心当たりがあると?」


全員で広間のテーブルに座ると、最初はいなかった青髪が俺をチラリと見ながら問うた。


どうやら彼女達の俺に対する評価は悪いほうで一致しているらしい。


「ああ。以前に同じような症状を見たことがある」


黄色髪に茶を出されたシーファが、それを両手で飲み干しながら答える。


「その前に一つ聞きたいのだが、お主らは最近クダラノポイントを入手するような機会があったか?」


逆に尋ねられた言葉には、数人がこくりと頷いた。


「少し前にあったイベントで1000ポイントを獲得したんだ。その時はまだカーラはいなかったから、この5人で山分けした」


そう答えたのは黒頭巾を被った一番小さい少女。

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