悪魔と天使が戯れる暗黒城②
「まあ、今のところはあくまで補助的な機能として使用するのが正解だろな」
自分の頭の中であれこれと考えていた俺に、グラスを飲み干しながらキラは言った。
「補助的、ね」
つまりはシステムを信じ過ぎず、失敗しても許せる範囲で使うということ。
現状どんな欠点やバグがあるか分からない状態では、それは致し方ないだろう。
「そうか。話が聞けて良かった」
とりあえず目的は果たしたので、俺はこの辺りでお
「もう帰るのか?」
「これでも色々と忙しいんだ」
立ち上がった俺をキラは
いつも不機嫌そうにしているくせに、実はかまってちゃんな奴なのだ。
「別に、俺だって色々忙しいんだからな」
対抗するように口を尖らせる様子に、思わず笑いを噛み殺す。
「次の1107エリアが解放されたら、共に攻略に行こう」
そう誘うと、自分では隠しているつもりなのだろうがアイスブルーの瞳は途端に輝いた。
「まあ、お前がどうしてもって言うなら行ってやってもいいけど」
腕を組んで横を向く青グラデーションの髪を見つめ、笑いながら頷く。
「じゃあ、約束だな」
そう告げると、片手を上げてこの退廃趣味の客間を後にした。
結論から言うと、俺にはその約束を守ることは出来なかったのだけれど。
ネタバレ絶許システムはそこそこ高い。
システムに関連するアイテムや魔法が高価なのは仕方ないのだが、クダラノポイントが200あれば他に買える物はたくさんある。
このポイントがあれば、あれもこれも買えたのに……と思ってしまうのはプレーヤーの
しかし、それは初心者のアタルの場合。
ポイントを貯めに貯め込んで使う機会がなかった
という訳で、ここはアマテラスのほうで代理購入すればいいではないかと思いついた。
「さて」
そして、無事に限定的関連情報及記憶消去システムことネタバレ絶許システムの交換機を入手した
相変わらず島はクダラノの空を遊覧し、眼下には青い海がひたすら続いている。
交換機はさっき1106エリアの横穴に納めてきた。
後は、アマテラスのアバターをログアウトして、アタルとしてシステムを受け取り、システムをオンにしてログインし直せば良い。
そうすれば、その時のアタルはクダラノについての記憶が消えた状態になっているはずだ。
一つ心配なのは、2つアバターを持っているプレーヤーの記憶はどうなるのかということ。
同じクダラノ内にいる以上、IDが違ってもどこかで意識が
だが、このシステムを使用したことがある奴は数えるほどしかいない。
前例がない以上、自分自身で確かめるしかなかった。
しかし、ここで問題がまた一つ。
色々とゴタゴタしている間に時間は矢のように過ぎ、実はファイトマッチはもう明日なのである。
ネタバレ絶許システムをぶっつけ本番で使うにはリスクが大きすぎる。
ファイトマッチが終わった後にしようかとも思ったが、アマテラスの武器を使うその時こそが一番演技が必要になる瞬間だ。
アタルが本当の初心者だと思わせるためにこのシステムを導入するのだから、明日使用しないなら意味がない。
「仕方ない」
解決策として俺が思いついたのは、自分にお手紙を書くことであった。
アタルはいつもログイン後は世界樹の家の自分のベッドで起床する。
枕の下にでもそれを隠しておけば、目覚めた時に見つけるだろう。
① 自分はいま記憶を消しているが、実はアマテラスのセカンドアバターであること。
② それを隠しながらプレイを続けたいが、ファイトマッチを行わねばならず、その結果 記憶消去システムを使用したこと。
③ 上記の事情より、初心者のふりをしながらファイトマッチにはなんとか勝ってくれ。
こんな事をかいつまんで記しておいた。
この手紙を読むことによって記憶が蘇るのか、そうではないのかは未知数である。
しかし、これだけのことが指示してあればアタルはとりあえず素直に信じて従う。
それは、自分自身である俺が誰よりも知っている。
「よし」
アタルの姿でベッドの中に手紙を隠した俺は達成感すら感じていた。
後はネタバレ絶許システムをオンにしてログアウトすれば、準備は完璧だ。
解放された気持ちでなんとなく世界樹の家の広間に下りると、今は誰もログインしていないようだった。
テーブルの上にはキャンディのマグカップが一つポツンと残されている。
「ん?」
カップを片づけようとして、その横に置いてあったメモ書きにふと気がついた。
“ファイトマッチ、クダラノ時間 7/23の13:00にログイン”
筆跡からしてキャンディのものである。
ファイトマッチについてのやり取りは彼女が全部やってくれていたから、向こうから時間決定の連絡がきたのだろう。
13:00にログインということは恐らくマッチ開始は13:30あたりで、ここに一度集合して全員で会場に向かうつもりか。
いよいよだ。
万全の態勢を整えたと思っているとはいえ、本番では何が起こるか分からない。
同じくらいの不安と期待を抱え、俺は拳を握りしめた。
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