悪魔と天使が戯れる暗黒城①
レベル666は、一言で表すならばひどい中二病エリアだ。
中世ヨーロッパを思わせる
一見悪趣味だが、刺さる奴には思いきり刺さる一帯である。
そんな場所を拠点にしている変わり者がいる。
「久しぶり」
突然 現れた
「なんの用だ」
それは無理もなく、俺が彼の
「まあ、たまには語り合うのもいいだろうと思ってな」
そう言いつつ足を踏み入れたのは、朽ちかけた礼拝堂のような建物。
円形のドーム状になっており、見上げたステンドグラスは所々ひび割れ、その向こうでは絶え間なく雷鳴が轟いている。
ここは、クダラノNo.4ランカー キラの拠点。
その名も「悪魔と天使が戯れる暗黒城」である。
「嘘をつくな、最近はほとんどログインもしていないくせに。何か企んでるだろう」
アイスブルーの瞳が間近に迫り、俺を見下ろす。
ちなみに、アマテラスは中性的な見た目をしていることもあり身長はそれほど高くない。
「実は、ちょっとお前に聞きたいことがあったんだ」
元々 冗談が通じる相手でもないので、俺は単刀直入に要件を切り出した。
「聞きたいこと?」
「例の……ネタバレ絶許システムについて」
「で、俺になにを聞きたいことって?」
その後、場所を移した俺達は昔の大貴族が使うような無駄に長いテーブルの端と端に座って向かい合った。
彼の使い魔(魔法で作り出した生体)が、これまたゴテゴテした装飾の食器類で飲み物と軽食を運んできてくれる。
「お前が開発した、ネタバレ絶許システムの精度について教えて欲しい」
偉そうな態度でキラは言うが、ちょっと席が遠すぎて何を言っているのかよく聞こえない。
大きな声で尋ね返すと、あからさまに嫌そうな顔をされてしまった。
「どうして、あんなシステムのことを知りたい? あれは他プレイヤーが自分より先にエリアやモンスターを攻略してしまった時のためのもので、いつも一番乗りしてる奴には必要ないと思うが?」
わざとらしい
「いや、ここのところ あんまりエリア攻略も出来てなくてさ。現に1106はシュヴァートに先越されただろ? これから使う機会があるかも、なんて思ってな」
キラの言いそうなことは予想できたので、
最近の俺はどうにもやらかしが多いので熟考したが、反応はどうだろうか……。
「……まあ、それは自業自得だがな」
言いながらキラの美しい顔が斜に構えて赤ワインを飲み干す。
一々キザな態度が
「限定的関連情報及記憶消去システムは」
と、彼は通称“ネタバレ絶許システム”について語り出した。
「確かに俺と運営が共同で開発したものだが、未だに不完全……というか未知の部分も多い」
そもそも、このシステムはネタバレというものが何より嫌いなキラが運営にかけあって作ってもらったもの。
クダラノにおける運営というのは、プレイヤーからの連絡や問い合わせを基本的には無視する ふざけた組織なので、共同開発者に聞くのが確実だと思いここへ来た。
「よく分かってないのに使用して大丈夫なのか?」
「いいか? 少し前まで全身麻酔の原理だって解明されていなかった。肝心なのは原理ではなく、それが利用者にその不安材料以上の利益をもたらせるかどうかだ」
そう説明されるとそんな気もしてくるが、どうも煙に巻かれた感は拭えない。
「具体的には、どんな箇所が未知なんだ?」
「このシステムは、クダラノにいるとき限定でクダラノに関する知識を消す。つまり人間の最も不安定な要素である記憶に頼るところが多い」
キラが言う通り、ネタバレ絶許システムを使用してログインすると、それまでプレイした記憶はもちろん、リアルの世界でクダラノについて知った知識も全てが無くなる。
「これが、記憶の消去なのか蓋をかぶせてある状態なのかが まず断定できない。そして、記憶の状態にも個人差がある」
「個人差?」
「きれいに記憶が消えるプレーヤーもいれば、どこかに違和感が残る者もいる。リアル時の事だけ断片的に蘇ったり、他のプレーヤーから聞かされた事実についてはまだらに思い出したなんてケースもあったらしい」
いつも通り
しかし、クダラノは意識をゲーム内に送り込むことで成立する仮想現実。
まだ人類が解明できていない分野を操作するのだから、不確かな現象が多いのは当然のことなのかもしれない。
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