穴があったら入りたい①
最初は、やっぱり心のどこかで葛藤があった。
自分自身とはいえ、アマテラスの力を借りるのは卑怯じゃないか。間違っているんじゃないか。と。
俺だって、主人公が実は隠された力を持っていて無双するなんてお決まりパターンは、見る側としてなら普通に好物だ。
けれど実際に自分がその立場になると、どうにも
いくらムカつくクソガキがキッズコーナーで暴れていたとしても、そこに大人が乱入して行って本気で殴り倒したら……さすがにヤバい奴だろう。
もちろん状況は違うが、要は格上の者は広い心を持って
だから、ワンパンどころか指一本で消し去ってしまえるような奴等に本気を出すのが果たして正解なのか。
多分 、俺はそこに引っかかっていて、アタルとアマテラスを切り離すことで その迷いから目を逸らしていた。
でも、アカネの悔しそうな顔、ヒロカの押し殺した気持ち、俺は俺と言ってくれたミドリコ、キャンディの苦しみ、勇気を振り絞ってくれたカーラ。
彼女達との日々を壊されるかもしれないと思った時、俺は自然と心を決められた。
『アマテラスみたいな強さがあれば良かったのに』
そうだ。俺に皆を助けられるだけの力があるのなら、
卑怯だろうと
「さーて、どうするかな」
アマテラスとして久しぶりにログインした俺は、
一度この力を使うと吹っ切れてしまったら、それまで悩んでいたことが嘘のように何だか楽しくなってきた。
とはいえ、当然この姿で出ていって直接戦う訳にはいかない。
あくまでアタルとしてイクリプスに勝たなければ意味がないのだから、アマテラスの存在は表に出さないことが必須条件だ。
それには、アマテラスが持っている持ち物を流用するのが一番簡単かつ確実な方法だろう。
この倉や武器庫には、俺のレベルではもう不用なアイテムや武器が所狭しと押し込まれている。
けれど、あくまでアマテラスにとって役不足というだけで、普通にみれば相当チートな品ばかり。
赤龍の宝刀とか、精霊の白鎧とか、第9層のブレスレットとか。
レベル1000エリア以上でないとお目にかかれないような激レア物がゴロゴロ転がっている。
アタルは悲しいかな通常なら小林達にすら負けてしまう奴だが、上記の装備をすれば、いとも
ただ問題は、そんな武器をどうやってレベル0の初心者が入手し、使いこなすのか。
その筋書きと演技力が必要だった。
「うーん」
そんな
そんなことを考え、しばらく頭を悩ませていたのだが。
『よおっ、今日は珍しくご
突然目の前に現れた
「シュ、シュヴァートか」
バクバクとする心臓を悟られないよう努めて冷静な声を出したが、そんなことを相手は気にもしていない。
『スィーティーやキラの言う通り、本当に最近いねえんだもん。寂しかったぜ』
ガハハと、ウインドウいっぱいに笑うNo3ランカー。
親しいプレイヤーがこうして連絡してくることは珍しくはない。
しかし、こいつは少々デリカシーや配慮というものを母親の腹の中に置いてきてしまっているのだ。
「なんだ、毎日俺がログインするの待ってたのか?」
ちょっと嫌味で聞いてやったが
『毎日っていうか、最近は1時間おきにこうして連絡入れてたんだぜ』
と楽しそうに返されてしまう。
ストーカーにつきまとわれる恐怖がちょっと理解できた気がした。
「俺に何か用事でもあったのか?」
そう聞いたのは、普段シュヴァートから俺にコンタクトを取ることはそれほど多くないためだ。
『ああ、実は1106を攻略したんだけどな』
すぐに彼が切り出したのは、最近解放されたばかりの新エリアのこと。
俺がアタルのアバターを作った頃はレベル1104が最新だったが、世の中は いつの間にかそんな所まで進んでいるらしい。
「それがどうしたんだ?」
すっかり浦島太郎状態の俺は
『本当に何も知らねえんだな。まさか、このまま引退なんて考えてないだろうな?』
「まだ引退する気はないけど、何だっていうんだ」
少し呆れた様子のシュヴァートが、自分の顔が映っているウインドウを何かの画像に切り替えた。
「これは?」
『レベル1106エリアだ』
見れば、空撮したと思われる白茶けた無機質な地面が延々と続く風景。
びっしりとフジツボのような横穴が点在しており、これまでのエリアでは見たことのない造形だった。
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