本当の自分⑤

クダラノのランクというのは、基本的には競技トーナメントによってでしか決まらない。


競技トーナメントでは、戦闘力から上位100人が選出され、勝ち抜き戦の結果により順位=ランクが与えられる。


要は、このトーナメントに参加した100人のみしか「ランクNo XX」とは名乗れないのだ。


しかし、何億人とプレイヤーがいるクダラノではそれでは不便だという理由からか、便宜上べんぎじょうランク換算という指標が存在する。


これは単純に戦闘力を反映しただけのもので、例えばブレイブブルなら換算ランク1105、カーラなら換算ランク89。


普段はあまり使う機会はないが、スカウターから調べることが出来る。


カーラが100位以内なのにランカーでないのは、ランカーと同等の実力はあるが競技トーナメントへの参加を辞退しているためだ。


上位100名のランカーと呼ばれるプレイヤー以外がファイトマッチを行う際は、この換算ランクを元にしてランク差が判断される。


今までファイトマッチといえば、大部分はランカー同士、そうでなくても換算ランクを持っているレベルのプレイヤーばかりが行っていた。


だからこそ、まさかレベル0でこんな 壮言大語そうげんたいごをかます奴がいるとは誰も思いもしなかったに違いない。


「ただ、換算ランクも無限じゃない」


俺の考えと同じ説明をミドリコにしてくれたキャンディが、その続きを語る。


「一応、ランクがつくのは10,000位までで、それより下の奴は全員ランク10,001ってことになる」


そこまでの説明で、ミドリコには十分なようだった。


「ランク1万って……レベルでいったらどれくらいなの?」


逆に尋ねられた疑問に答えるのは何とも難しい。


トーナメントのようにきっちりランク付けをするのではなく、換算ランクはちょっとした差やタイミングですぐに変動するものだからだ。


「一応、ランク1000がレベル400、ランク5000がレベル300、ランク10,000でレベル200くらいって目安はあるみたいだけど」


自信なさそうにだが答えるキャンディの話は俺も知らなかったので、勉強になった。


「つまり、それ以下のレベルのプレイヤーは全員がランク10,001ってことなのね」


そんなミドリコの要約に「なるほど」とタイカさんが声を上げる。


「レベル0だろうとレベル25だろうと、俺達は同じランク10,001。ランク差がない以上、ファイトマッチを行うことに支障はないはずだ」


そう宣言した俺を静かに見下ろすブレイブブルの換算ランクは1109。


彼とランク差が30位以内の者はいないから、勝負は申し込めない。


逆にレベル25程度の小林達なら、カーラ以外は誰でもファイトマッチが成立することになる訳だ。


「……や、やってやるぜっ」

「こんな底辺共に誰が負けるかよ!」


一瞬狼狽うろたえたものの、小林は威勢良くえた。


そりゃ、普段あんだけレベル0だの初心者だの嘲弄ちょうろうしていた相手から逃げる訳にはいかないだろう。


「いいですよね!?」


しかし、木暮から賛同を求められたブレイブブルは何とも嫌そうな顔をしていた。


彼としては、自分自身やせめて自分が選んだメンバーなら、俺達になど簡単に勝てると踏んだのだろう。


しかし、ランク差がなく尚且なおかつ知り合いの小林達を指名した俺の言い分は筋が通っている。


更に、これだけの格下に対戦相手の変更をお願いするのはこいつの矜持きょうじが許さないはず……。


最初から、そんな目論見があっての提案だった。


「分かった」


やがて不承不承ふしょうふしょうといった風ながら、ブレイブブルがそれを許可した。


その一言に、広間の中からはワッと喚声が上がる。


釈然しゃくぜんとしない様子のイクリプス、安堵のあまりその場に座り込むタイカさん達。


そして。


「アタル~っ」


振り向いた時には、俺はカーラに思いきり抱きつかれていた。


さっきまでの勇猛ゆうもうさはどこへやら。


その姿は、すっかり いつもの泣き虫に戻っている。


「お、おいっ。痛いって」


言いながら、その厚みのある体を慌てて押しのける。


本当は痛くなんてないけれど、この顔に押し当てている胸を早くどかして欲しい……。


「何だよ、マヌケ面しちゃってさ」

「言葉の割には嬉しそうだしね」


そんな俺の元へ、キャンディとミドリコも歩み寄る。


2人ともどことなく不機嫌そうに見えるのは気のせいだろうか。


「ま、色々聞きたいことはあるけど」


そんな俺の顔をじっと見つめ、小さく息を吐き出すキャンディ。


「……とりあえず、ありがとう」


ちょっとらされた、頬を赤くした顔。


「ああ」


それが見れただけで、俺には十分だった。


ファイトマッチ成立。


それはつまり、その対戦の時までの平和が約束されたことを意味するのだから。


「本当にいいんだな? 後悔してづらかいても知らねえぞ!」


掴み取った猶予ゆうよの喜びにひたっていた俺に、小林達が顔を近づけ怒鳴りつけてくる。


「ああ、構わない」


反射的に、自分でも意外なほど あっさりと俺は言い返していた。


そんな姿に、少したじろぐ小林達、驚くカーラ、不安をのぞかせるキャンディ、そしてじっと俺を見つめるミドリコ。


けれど それらの視線とは裏腹に、頭も体も不思議なくらい冴え冴えとしてる。


もう、躊躇ためらいや迷いはない。



この時の俺は、既にアマテラスの存在を利用すると決心していたのだから。


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