本当の自分④
普段そこらで勃発するPvPとは違い、ファイトマッチはショーとしての意味合いが強い。と思う。
何故なら、ケンカの延長のようなPvPと違い、ファイトマッチは目的があってこそ行われる。
つまりは、下位のプレーヤーが、上位者のランクを奪うためのものなのだ。
敗けたら必ずランクを譲らなくてはならないという掟はないが、実際に現状そうなってしまっている。
クダラノ内でランクの変動は一大事であり、その透明性を保つため対戦を公開する必要があるし、勝敗で
「圧倒的に不利なお前らから そんな提案をしてくるなんて、気に入らねえな」
返事を待つ俺を、ブレイブブルの
最初はただの脳筋かと思ったが、やはりイクリプスの幹部を任されるだけあって頭も切れるようだ。
「さあ、どうだろうな」
あえて、俺は何も言わない。
「どうぜ、とりあえずこの場から逃げようって寸法に決まってます!」
「ここで逃がしたら、このままクダラノから逃亡するかもしれないっすよっ」
代わりに、唾を飛ばしながら小林達が言いつける。
その考えは、当然ブレイブブルの頭にもあるだろう。
というか、この状況で俺からファイトマッチを申し込むなんて
このまま戦っていてもジリ貧となり、近いうちに俺達の負けは確実。
それなら戦力が
ブレイブブルが小林達くらい単純なら、勝手に先読みした気になってくれて話は早かっただろうに。
「一つ聞くが、そのファイトマッチにお前らが負けたら」
更に
「こっちが指名した3人はイクリプスに引き渡す、ってことでいいんだな?」
その言葉に、斜め前に立つカーラは表情を曇らせ、背後のミドリコとキャンディが体を固くする気配がした。
「ああ、もちろんだ」
即答した俺を見つめるカーラの驚いた顔。
きっとミドリコとキャンディも同じように呆気に取られているだろう。
なんたって、自分達の命運を俺が悩みもせず こんなあっさりと決めてしまったのだから。
……けれど、確実な勝機のある今の俺には悩む時間さえ不用だった。
「それに加えて、俺も大人しくクダラノを去る。俺達が負けたら、な」
「アタル」
「はあっ? てめえが消えるかどうかなんて、どうだっていいんだよっ」
そんな俺の補足に、仲間達は心配そうな表情を浮かべ、小林は噛みついてくる。
「うるせえって言ってんだろ」
しかし、俺の正面で脚を組むブレイブブルは眉を寄せてこちらを見据えていた。
弱小プレイヤーである俺など、奴等にとっては正直どうでも良いだろう。
けれど、ここまで事態を引っ搔き回した
もしイクリプスがカーラ達3人を手に入れたとしたら、俺の存在はまた邪魔になるに違いないのだから。
「いいだろう」
だから、ブレイブブルが低く頷いた声は驚きはしたが予想の
「ブ、ブレイブブルさん」
逆に慌てふためいているのは小林達を含めたイクリプスの連中。
まさか、こんな馬鹿な提案を受けるとは思ってもなかったはずだ。
「しかし、どうする? ファイトマッチはランクが近い奴としか行えねえぞ」
ブレイブブルが言っているのは、ルールについて。
プレイヤーは、1年に1度、自分とランク差が30位以内の者にしかファイトマッチを申し込むことは出来ない。
一応ではあるが、そういう決まりが存在する。
それは当然、俺とて分かったうえだ。
「俺がファイトマッチを申し込むのは、そいつらとだ」
そう指をさしたのは
「……はああっ? 俺らっ?」
思いがけぬ事態に その場で大声をあげる小林、竹内、木暮の3人だった。
「どういうことだ?」
その頃には戦っていた敵と離れ、俺の近くへ歩み寄ったボーテさんが
そう思われるのは当然で、唐突にブレイブブルにファイトマッチを挑んだかと思えば、その相手には下っ端の小林達を指名する。
支離滅裂のように見えても仕方ない。
「ふん、考えたもんだな」
しかし、ブレイブブルはそのからくりをいち早く見抜いたようだった。
「ああ、なるほど」
次に気づいたのはカーラ。
「どういうこと?」
俺の背後で、ミドリコがキャンディに質問する。
「……あ、そっか」
その問いにしばし考え込んだキャンディも、やがてハッと声を上げた。
「ボク達と小林達の間にはランク差がない。そういうことだろ?」
キャンディの言葉には答えなかったが、まさにその通りだ。
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