穴があったら入りたい②

若干じゃっかん 集合体恐怖症ののある俺からすると、なんとも体がゾワゾワとする眺めだ。


「それで?」


とはいえ、それでシュヴァートは何が言いたいのか。


『気を確かに聞いてくれよ』


何故か少しだけ真剣な口調になった彼は、その画像を拡大する。


ん?


鮮明になったのは、いくつかの横穴の内部。


目をらし よくよく見ると……その穴の1つ1つには、ミミズみたいな頭に幾つもの目のついた無数のモンスターがビッシリと詰まっていた。


「きもっ!」


思わず体を飛び退かせてしまったが、ウインドウは自分についてくるので離れられない。


蓮コラですら嫌悪感を感じる俺に、これは嫌がらせ以外の何ものでもなかった。


「何なんだよ、これはっ!」


存在しないはずの鳥肌がたつのを感じながら、ついシュヴァートに怒鳴る。


『レベル1106は寄生虫のエリアだったんだ』


画像を引っ込め、ウインドウに戻ってきた無精髭は真顔で言った。


「寄生虫……」


運営も、なんて悪趣味なものを作ってくれたのか。


スィーティーあたりなら喜びそうだが、俺は関わっていなくて本当に良かったと心から思った。


『想像してみて欲しい。ただでさえ広大なエリアに無数の穴、更にその中にいっぱいの寄生虫がウヨウヨと……』

「もういいっ、言わないでくれ」


それ以上は聞きたくなくて、文字通り俺は耳をふさぐ。


『とにかく、レベル1106を攻略するにはその寄生虫を一度全滅させる必要があったんだ』


続くシュヴァートの説明に、仕方なく俺は耳から手を離す。


「そもそも、よく こんなウジャウジャした奴等を短期間で駆逐くちくできたな」


レベル1106エリアが開放されたのは確か2週間ほど前。


新しいエリアの攻略期間として短くはないが、相手がこれだけ厄介だともっと時間がかかっても良さそうなものなのに。


『俺の連合の奴等が、総出で24時間頑張ってくれた』

「ああ」


俺、インティ、シュヴァート、キラ、スィーティーのトップ5ランカーの中で、シュヴァートだけが自分が主催する連合を持っている。


連合メンバーは数十人だが、誰もが高いランクと戦闘力、専門分野の知識、そして品位を兼ね揃えたエリートプレーヤーばかり。


そこに所属していること自体が名誉であり、クダラノ内では羨望せんぼうの眼差しで見られていると聞いたことがあった。


しかし、24時間とはどういうことか?


『ここの寄生虫は、倒しても1日つと復活しちまうんだ』

「はあ? どういうことだ?」

『どうやらヤドカリのような性質があるらしく、穴を誰かが使っている間は寄りつかない。けれどからの穴があれば、どこからともなく幼虫がわいてきて……』

「もういい、言うな」


頭の中で想像するだけで気持ち悪くなってきた。


けれど、そこまでの話で何となく全体像が見えた気がする。


「つまり、その穴を空にしておけない。ってことか?」

『そういうことだ』


寄生虫を入れないためには、誰かプレーヤーが穴を占有せんゆうすることが必要。


しかしクダラノ内のエリアを所有するというのは、金もかかるし中々に面倒なものだ。


しかも最高レベルのエリアまで行きつけるプレーヤーともなれば、その数はかなり限られてきてしまう。


それでシュヴァートは俺に声をかけた、ということらしい。


『一株でいい、どうだ?』


怪しいトレーダーのように持ちかけられるが、言うまでもなく気は進まぬ。


俺にはこれ以上 土地は要らないし、なんせ周囲は寄生虫だらけの空間。


とてもじゃないが、近づきたくもない。


『頼む、うちの連合だけじゃ維持しきれなくてよ』

「スィーティーにでも当たってみたらどうだ?」


あいつならきっと喜んで研究材料にするだろう。


『スィーティーはもう10穴買ってくれることになってる』


既に当たった後だったらしい。


「でもなあ」

『荷物置き場としてでもいいから、な?』


どこで覚えたのか、両手を合わせて頭を下げる“お願いポーズ”を見せつけながら懇願こんがんするシュヴァート。


……荷物置き場?


その一言で、ふと俺は考え込む。


『ほら、これから1106エリアに到達するプレーヤーが増えれば寄生虫も減るだろうし、それに……』

「分かった、1穴なら」


そんな俺の返事に、シュヴァートは随分と驚いたようだった。


『え?』

「だから買うって言ってるだろ。いつもみたいに土地管理事務所に問い合わせればいいのか?」


別のウインドウを開いて手続きや送金の準備をしながら答える姿を、ポカンとした目が見つめる。


『あ、ああ。そうだけど、急にどうしたんだ?』


その顔は、当然だが急変した俺の態度にかなり戸惑っているようだ。


「これもトップランカーとしての義務だしな」

『いや、お前 今までそんなの言ったことないだろ』


まあ、勿論それには俺しか知らない目論見もくろみがある。


シュヴァートから突っ込みを入れられつつも、俺が穴1つを所有することが その場で決まったのだった。

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