突入①
それは、本当は
いや、気づくという言い方すら馬鹿らしい。
アマテラスは、間違いなく俺であるのだから。
その意識にズレが生じてきたのは、いつ頃だっただろうか。
クダラノに、このアタルとしてログインした時にはちゃんと明確だった。
俺 ― 間瀬 亜汰流 ― の分身はアマテラスただ1人であり、アタルはただの捨てアカだと。
なのに、アタルとして過ごす時間が長くなって、仲間が出来て、そんな自分に愛着がわいて……。
いつの間にか、ここが俺の居場所になっていた。
勿論、アマテラスの存在を忘れていた訳じゃない。
けれどアタルでいる時、頭のどこかでアマテラスのことを「他のプレーヤー」と認識している自分がいた。
アタルとアマテラス
俺の中で、それは既に別々の人格として生き始めていた。
「大丈夫? ボーっとして」
そんなことを考えていた俺は、心配そうな顔をするミドリコの声で我に返った。
「あ、ああ」
気がつけば、目の前には弱々しくなった煙が流れ出す古びたドア。
毒気も大分抜けたようだ。
「きっと大丈夫だから」
俺の様子を緊張や不安からだと思ったのだろうミドリコが、こちらに向かってぐっと手を握って見せてくれる。
その姿に、俺も手放していた意識を取り戻した。
「ああ。絶対、皆で帰ろう」
そうだ。今はキャンディを助け、ここから無事に脱出することだけに集中する。
他のことなんて、後で考えればいい。
この場に立っている俺は、頭ではきちんと考えている。
『それで、この後はどうする?』
なのに、俺の中の別の俺がそんなことを問うた気がした。
……この後って、何のことだ?
どうしてか頭と体がシンクロ出来ない自分自身に苛つき、思わず額を押さえてしまったが。
「アタル、閃光がっ」
ミドリコの小さな叫びとともに、白い光が俺達を照らした。
物体をすり抜ける魔法がかけられているため、壁を通してボーテさんからの合図がダイレクトに伝わる。
今は、余計なことを考えている暇なんてない。
「行こう、ミドリコ」
雑念を吹っ切って走り出した俺にミドリコも頷く。
眼前のドアを蹴破り、部屋の中へと勢いのままに突入した。
ボーテさんの見立ては正しかったようで、部屋の中に煙は残っているものの毒はほとんど消えているようだった。
「皆、来るな!」
「ようやく臆病者が出て来たか」
白煙の中どこかから怒鳴るキャンディの声に続き、ブレイブブルの低い笑いが聞こえてくる。
2人の声は離れているから、とりあえずキャンディは無事なようだ。
「俺達を待っててくれるなんて、随分と人が良いな」
「
ブレイブブルの居場所を探ろうと会話を仕掛けてみたが、答える奴の
いつでも俺等など踏みつぶせると余裕をかましている。
とはいえ、5分間も大人しくじっとしていたのには、あいつらなりの事情があるはずだ。
そうでなければ、とっくに1人きりになったキャンディを捕らえていただろう。
一つは、単純に毒ガスの中で動き回るのはHPを削られるため。
二つ目は、煙で視界を奪われた中で暴れれば同士討ちになる。
そして、三つ目は、カーラの動向を警戒しているからに違いない。
ここに集まっている中で飛び抜けて強いプレーヤーにイクリプスが気を配るのは当然だ。
逆を言えば、彼女の存在次第で戦況が決まってしまうともいえる。
「アタル、なんで逃げなかった!?」
段々と煙は消えつつあり、徐々に人影がぼんやり見えてくる。
あの性格からして、ブレイブブルは未だ檀上のソファから動いていないだろう。
その他に、ざっと見て20人ほどのプレーヤーのシルエット。
小林達を含む、イクリプスの下っ端達だ。
恐らくキャンディもそれに
「さっさとそいつらを殺せ!」
キョロキョロと周囲を見回すが、当然それを待ってくれるほどイクリプスの連中はお人良しではない。
視界が良くなったのは向こうも同じこと。
すかさず、ブレイブブルも手下達に命令を下した。
「来るぞっ」
「離れるな」
部屋の向こう側からタイカさん達の声が聞こえてくる。
あちらも戦いが始まったらしい。
見る限りでは、室内にカーラの姿はない。
突入を
まあ、ジョーカー的な存在の彼女の出方が分からない以上、ブレイブブルも
俺がしなくてはならないのは、キャンディを探すことだ。
「おい、キャンディ、どこだ!」
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