Recognise③
まあ、それは後で直接キャンディに聞くしかない。
そんなことを
「この毒ガスが収まらないうちは手出しが出来ないな」
彼も布を顔に当てて咳き込みながら俺に言う。
「そうですね」
それは、裏を返せば毒ガスが収まったら行動を起こすということだ。
「アビーの話では、あのホールには出入口が3つあるらしい」
言われて見てみれば、確かに部屋から煙が流れ出す箇所は3つあった。
さっき俺が蹴破ったドアがキャンディの後方だとすると、他の2つは右側と左側といったかんじ。
「俺達がいることがバレてしまった今となっては、分散したほうがいいと思います」
少し考えて俺は口にした。
存在が知られてない段階なら、戦力を一ヶ所に集めての奇襲にも効果があっただろうが、今となっては逆に危険だ。
なんせブレイブブルの魔法が一つでも直撃すれば、カーラ以外は即死させられてしまうほど俺達の間には実力差がある。
「僕もそれがいいと思う」
「賛成です」
周囲には、ミドリコ、カーラ、ビクトリアさん、ボーテさんも集まってきて、全員がそれに同意した。
「どういう風に分かれるの?」
ミドリコが当然のように聞いてくるが、そもそも俺がこの場を仕切っていいのだろうか……。
そんな
ここでグダグダやっている余裕なんてない。
そう腹を決めた俺は、近くにあった小石をコンクリートの地面の上に並べ出す。
「今、こちらのメンバーは6人。本来なら2人組を3つ作りたいところだが、カーラには単独で行動してもらうのがいいと思う」
小石の中で一番大きいものを、ブレイブブルとキャンディのいる部屋に見立てた瓦礫の一辺へと置く。
これは、この中でカーラのレベルだけがずば抜けているからだ。
誰かが組めば確実に足を引っ張ることになってしまう。だから彼女には自分のペースで動いてもらおうという判断だった。
当然ここにいる誰もがそれは分かっているので反対意見は出ない。
「じゃあ、後の5人が2人と3人に分かれるかんじね?」
ビクトリアさんの言葉に、俺は頷いてその通りに石を動かす。
「そして、こんな状況だからこそ気心の知れたプレーヤーと組んだほうがいいと思う」
となれば、必然的に
【タイカ・ビクトリア・ボーテ】【アタル・ミドリコ】【カーラ】
と分かれることになる。
「それが間違いないだろうな」
「了解です」
他の皆も了承してくれ、カーラが後方、タイカさん達が左側、俺とミドリコが右側のドアから突入することとなった。
「この毒素が消えるまで5分35秒だな」
部屋の中から湧き出る煙を遠目に観察していたボーテさんがそう断言する。
彼は毒系の魔法が得意らしい。なんとも奇特な人だ。
「じゃあ、そのタイミングで合図をしてもらってもいいですか?」
「分かった。閃光を打ち上げるから、見逃さないようにしてくれ」
そんな流れで、作戦は決まった。
それぞれが分かれて部屋の周囲に配置につき、ボーテさんの合図で同時に突入。
タイカさん達と俺・ミドリコで下っ端のイクリプス達を
その隙に誰かがキャンディを助け出し、それを確認し次第この場から脱出。
という、まあ言ってしまえば運任せの要素が大きい計画だが、そもそもが戦力差がありすぎる戦いなので仕方ない。
上手くいくことを、神に祈るのみだ。
「じゃあ、俺達は配置につく」
「私も先に行ってるね」
タイカさん達、そしてミドリコは自分の配置へと向かって動き出す。
HP残り1の俺は少量でも毒ガスを吸い込みたくないので、少し遅らせて合流するつもりでいた。
「無事にキャンディを取り返せるといいですね」
こちら側から突入する為この場に残ったカーラが、アイテムボックスからカイザーナックルを取り出しながら俺へと言った。
よく見れば、普段は身につけていないグローブや武装ブーツを装備している。
彼女なりの闘いの正装なのだろう。
「ああ、その成功はカーラにかかってる。どうか頼む」
何も出来ない自分が情けないが、今この場で状況を左右できるだけの力を持っているのは彼女だけ。
そんな願う気持ちもあり、俺はカーラに頭を下げた。
いつものように
「私が出来ることなら頑張りますよ」
そう、笑顔の返事が返ってくるのだと思っていた。
けれど。
「……アタルに、話しておかなければならないことがあります」
顔を上げると、見たことのない深刻な表情でカーラは俺を見返していた。
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