敵のアジトへ③

要は、ブレイブブルはキャンディを追って俺達がここまで来ることはお見通し。


そこでカーラとミドリコまで自分の元におびき出そうとしているのだろう。


「いいか?」


そんな意図が透けて見えるから、念のため本人達に確かめるが


「キャンディがいるなら行くしかない」

「ブレイブブルの居場所を突き止めるのが最優先ですから」


ミドリコもカーラも、予想していたことながら当たり前のように頷いてくれた。


彼女達をここに置いてゆく選択もあるが、正直イクリプスと事を構えた時に戦闘要員が俺とタイカさんパーティーだけではとても勝ち目がない。


正面から戦って勝てる相手ではないが、隙を見つけて逃げるにしてもカーラとミドリコの力はどうしても必要だった。


「分かった。でも無理はするなよ?」


2人に小声で言い、俺はドラキへと向き直る。


「連れて行ってくれ。ただし、ここにいる全員をだ」


そう告げると頭の後ろに両手を回した彼は「はいはーい」と適当に返事をして背中を向ける。


「ま、何人いてもイクリプスには勝てないと思うけどねー」


そんな声を聞きながら、俺、ミドリコ、カーラ、タイカさんパーティー、トリアエズの町の皆は、ブレイブブルの元へ向かい歩き出した。



 レベル15エリアの規模はレベル0と同じくらいだが、様相は大分違っていた。


ギルドや武器屋、宿屋などはそれなりに営業しているようだが、それ以外の場所はほぼ機能していないといって良い。


色々な店や市場で活気付いていたトリアエズの町とは正反対だ。


「あんたはイクリプスの仲間じゃないのか?」


そんな景色を眺めながら、俺は前を歩くドラキに聞いてみた。


「は? 何でそんなこと思うの?」


煙草をくわえ振り返った彼が不思議そうに俺を見る。


「イクリプスに雇われてるって言ってただろ。雇われてるのと仲間では意味合いが違う」

「ああ、よくそんな細かいこと聞いてたな」


ははっと笑うと、歩をゆるめた体が俺へと近寄ってくる。


なんだか妙に馴れ馴れしい奴だ。


「ここだけの話、イクリプスも本気でクダラノを変えてやろうっていうガチな奴なんて かなり少ないんだ」

「どういうことだ?」

「その他大勢は、イクリプスの名前を借りて好き放題やりたい奴とか、俺みたいに金で雇われた傭兵ばっかってこと」


傭兵というより鉄砲玉というほうがしっくりくる気がするが、まあそれはスルーした。


「だったら、わざわざ他のプレーヤーを脅してまで仲間にしなくてもいいだろ」


権力や金が好きな、そういう奴等だけを集めて勝手にやっていて欲しい。


「それは俺に言われても困るけどよ」


まったくの他人事のドラキは曇った空を見上げながらダルそうに歩く。


その向かう先には、巨大な廃墟のような建物が見え始めていた。


「それだけお前の仲間達が優秀だってのと、メンツを潰されたのが気に食わなかったんだろうなあ」

「メンツ、ね」


このドラキの一言は的を得ているのだろう。


現実でもクダラノでも、こういうならず者が一番こだわるのは自分達の外聞がいぶん


恐怖でしか他人を操れないと分かっているから、異常なほど他からの評価にこだわるのだ。


「まあ、お前らも喧嘩うった相手が悪かったな。初心者で知らなかったから仕方ねえかもしれないけどさ」


ケラケラと笑うドラキの足が、ひと際荒れた敷地の中へと入ってゆく。


見たところ元は大型のレジャー施設か何かだったようだが、今は建物も朽果くちはてうらぶれた空気だけが充満している。


瓦礫の上に座るガラの悪い連中が遠巻きに俺達を睨みつけていた。


「あのキャンディとかいう狼娘も、今頃ブレイブブルさんに何されてるか……」


まるで からかうようなセリフをドラキが口にした時。


ドオォン


という大きな爆発音が聞こえてきた。


「はっ? なんだ?」


ドラキはビビッていたが、これはキャンディの仕業だと俺は直感的に思った。


「アタル、行こう!」


同じことを察したのか、ミドリコが最初に走り出す。


「ああ。皆はなるべく危険のない場所にいてください」


トリアエズの町の人々に口早に告げ、俺もその後を追った。


音がしたのは、敷地一番奥の大きな建物の中から。


「何があったんでしょう」


背後からカーラさんが心配そうに呟き追いついてくる。


その更に後ろには、タイカさん、ビクトリアさん、ボーテさんも続いていた。


実際 戦いになったら、このメンバーだけでどうにかするしかない。


相手の勢力を考えると正直それは無謀なことのようにも思えたが、ここまで来たらやるしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る