敵のアジトへ②
「そんなの、君達のせいじゃないだろ」
しかし、頭上からかけられた声は思いがけない人からだった。
「ボーテ、さん?」
タイカさんやビクトリアさんがそう言ってくれるのは何となく分かる。
しかし、俺達のせいでトリアエズの町や自分達に被害が及んだことを一番怒っていた彼が そう言ってくれるのは正直予想外だった。
「……僕も、君達の立場になって考えてみた」
そんな心のうちが聞こえたように、ボーテさんは少し俯き気味に語り出す。
「自分の関わりないところで悪事に利用され、身近な人が巻き込まれてしまったら……。そんな状況に心が傷つかないはずがない」
その言葉に、俺ははっと顔を上げる。
「一番 胸を痛めているは君達だったのに。……あんなことを言って、すまなかった」
そう深々と下げられる頭を、茫然と見つめた。
「そ、そんなのやめてください!」
「そうです。ボーテさんが謝ることなんてないです」
目の前ではカーラとミドリコがアワアワとしているが、それを見る俺の頭には全く別の感情が
心が傷つき、胸を痛める。
そうだ。俺は……俺達は、こんな状況がずっとずっと苦しかった。
なのに目まぐるしく襲いかかる出来事に追われ、気づかないフリをしていた。
誰かに言ってもらえたことで、初めてそれを認められた気がする。
「そういう訳だから、ここからは仲間としてよろしく頼む」
「……あ、はい。こちらこそ」
差し出されたボーテさんの手で、俺は現実に戻された。
「この辺りからレベル15エリアに入る。ここから先はイクリプスが待ち構えているだろう」
手を握り返した俺に、トリアエズの町のアイテム屋の店主が言ってくる。
そんな言葉に前方を見れば、地平線の向こうには黒い城壁のようなものが
「あれがレベル15エリア?」
と聞いたのは知らないフリをした訳ではなく、本当に最近のレベル15エリアには初めて足を踏み入れるからだ。
「ああ、あそこは初心者にとって最初の難関エリアと言われる。その分、そこそこの強さのプレーヤーが集まる地となり、ちょっと治安が悪い場所になってる」
武器屋のオヤジが教えてくれたように、近づくにつれその
高く厳重な壁に囲まれるのは、街というより要塞といったほうがしっくりくる。
出入りをする人々もそれなりに武装や重装備をしていて、全体的に何となく重苦しい雰囲気が漂っていた。
レベル15エリアの入口まで行くと、灰色の重厚な門と門番が待ち構え、行き交う人を監視しているようだった。
クダラノでエリア内の行き来は自由。
私有地でもない限り、見張りなど必要ないはずなのに……。
「あれはイクリプスのメンバーです」
そんな俺の疑問に、カーラが耳元で教えてくれた。
「じゃあ、勝手にあんな事をしてるのか?」
俺が聞き返すと、門番の1人にギロリと睨まれた気がする。
「はい。ここはブレイブブルが実質支配してるエリアなので、その警備の意味もあるんだと思います」
なるほど。
力のあるプレーヤーが1つのエリアを自然と仕切ってしまうことはままあるが、暴力で支配するという話は今まであまり聞いたことがない。
イクリプスは、他でもこうやって勢力を拡大しているのだろうか。
俺達が門をくぐりレベル15エリア内に入ると、そこは殺風景で荒涼とした街が広がっていた。
家や店もまばらで、歩いているプレーヤーも少ない。
代わりに、イクリプスと思われる奴等が常にどこかで目を光らせてこちらを凝視している。
「お前がアタルとかいう奴か?」
そんな俺に、近づいてくる人影があった。
「そうだけど」
盗賊風の恰好をした、いかにも調子の良さそうな男。
スカウターで確認すると、名前はドラキ、レベルは48。
「俺はブレイブブルさんに雇われてるモンなんだけどよ」
そんな彼はやはりイクリプスのメンバーのようだった。
しかし こんなチャラそうな奴でも、あのレプティリアンと同レベルなのだから何とも厄介だ。
「キャンディはここに来たのっ?」
俺の後ろからミドリコが身を乗り出して尋ねると、その軽薄そうな顔が鼻で笑う。
「ああ、あの狼獣人の子だろ? 俺がさっきブレイブブルさんのとこに案内したぜ」
さも当然といった風に、顎で街の奥をしゃくる。
恐らく、そこがブレイブブルのアジトなのだろう。
「その場所を教えてくれ」
「ああ、いいぜ」
ダメ元で言ってみたというのに、あっさりとドラキはそれを了承してくれた。
「いいのか?」
「ていうか、俺はお前らを連れて来いって言われてるんだよ。まあ、正確にはそっちのネエちゃん2人だけど」
そう視線を向けるのは、カーラとミドリコへ。
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