敵のアジトへ①


 カーラの話によると、ブレイブブルはイクリプスの中でレベル0~15エリアの統括を任されているという。


主に才能あるプレーヤーを初心者のうちにスカウトしたり、低レベルエリアで埋もれている特殊技能持ちを探し出す仕事をしている。


それはイクリプスの中でもかなり重要なポジションらしく、彼自身のレベルは420だ。


この辺りで活動するレベルの高くないプレーヤーが従ってしまうのは当然だし、そんな奴に睨まれたら誰だって逃げ出したくなる。


そんな状況を、キャンディは1人でずっと耐えていた。


 「イクリプスって、リーダーみたいな存在はいるんですか?」


レベル15エリアへと向かう道の途中。


ミドリコからの質問に、カーラは顔をしかめる。


「正直、それはよく分からないみたいなんです」

「分からない?」

「イクリプスは、最初はアマテラスの方針に反発するプレーヤーの集まりだったそうですが、それが段々規模が大きくなり今ではランカーと呼ばれる上位プレイヤーの中にも息のかかった者がいるとか」

「つまり、決まった誰かが頂点にいる訳でなく、そういう考えを持った人達の同盟みたいなものってこと?」


2人の会話は、以前シュヴァートが教えてくれた話とおおむね同じだった。


『イクリプスっていうのは そもそも反アマテラスの思想を持ったプレーヤーが連合を組み、更に同盟を結んだ広域の勢力のことだ』


確かに、あいつもそう話していた。


「それが、イクリプスには実は影のリーダーがいるって噂があるんです」


しかし、ここでカーラが口にしたのは俺の知らない情報であった。


「影のリーダー?」

「はい。イクリプスの中でも知ってるプレーヤーは極僅ごくわずかの幹部だけの、トップシークレットだとか」


声を揃えて聞き返す俺とミドリコに、カーラはキョロキョロと周囲を見回し声をひそめる。


しかし、そんな重大な噂だったら、こんなところまで漏れてくるものだろうか……。


「じゃあ、そのトップシークレットとやらはどんな奴なんだろうな」


眉唾まゆつばと決めつけた俺は、ちょっと茶化すようにカーラに聞いてみる。


が、元が真面目な彼女は真剣な口調のまま


「何でもトップランカーの1人で、その人が最初にイクリプスを作ったから他のプレーヤーも素直に従ってるって話です」


そんなことを言う。


「トップランカー?」

「まあ、あくまで噂ですけど」


それを強調するくらいだから、カーラ自身も信じてはいないのだろう。


しかし、俺にとっては逆にその話が気になった。


クダラノで、「ランカー」は上位100位まで、「トップランカー」は上位10位までのプレーヤーを指す。


トップランカーの2~5位はインティ、シュヴァート、キラ、スィーティーだから当然違うとしても、6位から10位のプレーヤーもそれほど親しくはないが昔から知っている顔馴染みばかりだ。


その中の誰かが、アマテラスへ憎悪を抱いている?


それは、にわかには信じられないことだったのだ。


「その話、もっと詳しく……」

「あ、あれって」


思わず続きを聞き出そうとした俺の声は、悪気のないミドリコの呟きで遮られてしまった。


「え?」

「もしかして、トリアエズの町の皆じゃない?」


そんな言葉につられて目をこらすと、確かに俺達の前方には数十人ほどの人影が見え、それは見覚えのある顔ばかり。


武器屋のオヤジ、大工のじいさん、あの大通りの人々。それにタイカさん、ビクトリアさん、ボーテさんの姿もあった。


「みんな」


「俺達も手伝わせてくれ」

「捜索は人手が多いほどいいからな」


まだ遠い距離からミドリコが手を振ると、武器屋のオヤジと大工のじいさんの声が風にのって聞こえてくる。


「あの。……店は?」


慌てて武器屋のオヤジに駆け寄ると、そのいかつい顔はいつも通り不愛想のまま。


「アビーと狼娘の安否がかかってるんだろ。店なんて何度でも建て直せるんだから後回しでいい」


だが、ぶっきらぼうに言ってくれた その一言で、俺達は救われた気がした。


「俺達もアビーを取り戻しに行くところだった。悪いが力を貸してくれ」


そして、その隣からは不安を押し殺したようなタイカさんの声。


「それは、当然ですけど……」


そもそも、彼の仲間であるアビーがさらわれたのは俺達のせい。


そのことをどう思っているのだろか。


「私のせいで、すみませんでした!」


やっぱり同じことを思っていたのであろうカーラがタイカさんに勢いよく頭を下げ、ミドリコも同じようにならう。


イクリプスは、アビーとの交換にキャンディ、カーラ、ミドリコを指定してきた。


彼女達からすれば、どうしても自分のせいでと考えてしまうに違いない。

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