暴発①

「けど、ここで落ち込んでいたって仕方ない。これから どうするかを考えよう」


俺は出来るだけ平静な声で広間のテーブルに集まった皆に言った。


勿論、自分とてこの状況を受け止めきれている訳じゃない。


でも強がりでも前を向かなければならない。


そんな、なけなしの空元気からげんきだった。


「……そうだね。まずは町の皆に迷惑をかけない方法を考えないと」


沈黙の後、最初に口を開いてくれたのはミドリコ。


「うん。それと武器屋の建て直しもすぐに取りかかろう」

「明日からでも すぐに行けるよ」


それに応えるように、アカネとヒロカも声を出す。


「私は町の見回りが出来ないか、自治体の人と話してみます」


カーラも自らそう提案してくれた。


「ああ、俺達がやれることからやっていこう」


本心では、何が出来るか、どこまで通用するのかなんて分からない。


けれど、少しずつでも明るい材料を探していかないと、この重圧に押し潰されてしまいそうだと思った。


しかし。


「……本当に、そんなのが意味あるって思ってる?」


低い声が、薄暗い広間の中に響く。


それは、俺の斜め向かいに座り下を向くキャンディからであった。


「どうしたの?」


そんな いつもと違う様子にヒロカが肩に触れるが、その手は乱暴に振り払われる。


「この戦力でイクリプスと戦うなんて無理に決まってるじゃん!」


突然立ち上がって怒鳴る姿に、俺達は誰もが唖然あぜんとその様子を見つめる。


「皆、曖昧なこと言って現実から逃げてるだけ。あいつらが本気になったら、ボク達なんて一方的にいたぶられて惨めに逃げ回るしかない!」


そこまで言い切り大きく肩で息をするキャンディを、俺は正面から見据えた。


「キャンディ、座って冷静になろう」

「そんなのなれるかっ」


けれど、感情のはげしさは増すばかり。


「……大体さ、何で皆ボクのこと責めないのっ?」


そして、激情が収まらないままの叫びこそ、彼女がずっと抱えていた本心。


「イクリプスに目をつけられてるのを隠して仲間にもぐり込んだ。下手したら、その時点でここが狙われてもおかしくなかったのに。……そんな卑怯でずるい奴なんて、さっさとあいつらに引き渡せよ!」


「キャンディ!」


開きかけていた俺の唇は、アカネの鋭い声で閉ざされた。


「うちは、そんな風に思ったことなんて一度もないっ。今までずっとキャンディがここに来てくれて、嬉しいし楽しいって思ってた!」


なかば怒鳴るように語る姿は、いつもの能天気で明るい彼女じゃない。


本気で、この現実が悲しく悔しく思っている。


「……でも、実際ボクの存在がイクリプスとめる原因の1つなのは変わらない」


「それは私だって同じですっ」


たまりかねたようにカーラが言うが、キャンディは首を振る。


「ボクは、カーラみたいに本音をさらけ出す勇気も、自分自身を守る強さも持ってなかった」


いつも元気いっぱいで、生意気で、どこか達観すらしているようだった体が今はしぼんで見える。


何か、口にしなくてはと思った。


でも、その一方でキャンディの気持ちも分かってしまう。


自分がイクリプスと因縁を抱えていると知られた時、もしかしたら責められ ここを追い出されると考えたのかもしれない。


けれど俺達は、そのことには触れなかった。


別に、そんなのは本当に気にしてなかったから。


どうせイクリプスとやり合うなら、力を合わせて一緒に立ち向かえればいいやくらいの気持ちだった。


だがキャンディにとっては、それが逆に不安で、罪悪感だけがつのる結果になっていたのかもしれない。


俺は、そんな心のうちを何も分かっていなかった。


「でも、弱いのは私達も皆 同じだし」


「だから、弱い奴が集まったって無意味なんだよ……っ」


ミドリコの言葉を拒絶するように、キャンディが言いかけた時。


甲高い破壊音とともに、俺の頬を後方からの熱い何かが横切った。


「……は?」


チリチリとする感覚を感じながら視線を移した先。


火のついた弓矢が、木製のキャビネットに突き刺さっていた。


フリーズしてしまった数秒の間に、この火矢ひやが窓ガラスを割って射ち込まれたのだと頭では理解する。


「火! 消さないと!」


だがアカネが叫んだ時、もうキャビネットには炎が広がりつつあった。


「み、水、水!」


ヒロカが広間を飛び出そうとして、カーラは近くにあったバケツを手を伸ばす。


みるみる火の勢いは大きく強くなり、まずい……とやっと俺が動き出せた頃。


「ジブール!」


冷静にミドリコがキャビネットに魔法で水をく。

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