6人目の仲間

「助けてくれる仲間がいないのは、人との関わりをってきた自業自得なのに。そんな私のために、あんなに一生懸命……」


また泣き出しそうな声に、俺はミドリコ、ヒロカ、アカネと顔を見合わせて小さく頷く。


「なーに、過去形で語っちゃってんの!」


こういう時、いつも場を明るくしてくれるのはアカネだ。


「え?」

「確かにうちらはカーラさんのこと庇ったけどさ、カーラさんもうちらを守ってくれたじゃん?」


確かにイクリプスに向かって「この家や皆にも手出しはさせない!」。彼女はそう言ってくれた。


「助けて助けられてなら、もうそれって“仲間”ってことじゃない?」


ニコリと笑ったミドリコの顔を、そのグリーンの瞳は穴があくほど見つめて


「仲間……って、私が?」


信じられないように、俺達1人1人の顔を見回した。


「でも」

「っていうか、次にあいつらが来た時に私達だけじゃどうにもならないしね」


カーラさんの迷いをさえぎるように言ったヒロカが俺に目配せしてくる。


「そ、そうだな。こんな強い人がいてくれれば、俺達も助かるし」


そして一度言葉をきってコホンと咳払いすると


「それにカーラさんが一緒なら、今までよりもっと楽しいと思う」


ちょっと照れてしまったが、そう言いきれた。


「……わ、私、ここにいて、いいんですか?」


みるみるあふれる涙に俺は困り果てる。


それが悪い感情のものでないにしても、男は女の涙に弱いのだ。


「っていうか、最初からうちらはずっといてもらうつもりだったし?」

「そうそう。カーラさんが嫌でなければ、だけどね」


代わりに、アカネとヒロカがそんなフォローをしてくれた。


俺とて、これだけ強いプレーヤーが仲間になってくれるのは有難い。


一緒にパーティーを組めばエリアの攻略も各段に幅が広がるし、何よりイクリプスへの牽制けんせいになる。


けれど彼女が今まで独りでいたのは、他プレイヤーと戦いたくないという以外にも、人と関わるのが苦手な性格もあるようだ。


だから、俺達の仲間になってくれるかは少し不安でもあったが。


「……私、ずっと一人ぼっちでいいって思ってたんです。その方が気が楽だし、自分にはあってるって」


両手を顔にあてて語る様子は、今までの張りつめていた彼女とは何か雰囲気が違うように感じられた。


「でも、本当は怖かったのかもしれない。人と戦って嫌われること、人と関わって拒絶されることが」


「うん」


少し震える背中を、ミドリコがそっと撫でる。


「そんな私が、“仲間”になっても、いいですか?」


しぼり出すように尋ねられた問いに、俺達の答えは決まっていた。


「もちろん」


それを聞いたカーラさんの大号泣は、それまでで一番ド派手なものだった。


「お前もいいよな?」


カーラさんとそれをなぐさめる3人娘から離れ、俺はキャンディへと声をかけた。


ずっとこの広間にいたくせに隅っこに立ち尽くしていた顔が、どこかボーッとした様子でこちらを見上げる。


「……別に、ボクが何か言うことじゃないし」


静かに横を向いてしまうのは、いつもの生意気な彼女らしくない。


カーラさんの手前これ以上しつこく尋ねることも出来ないが、この間からの元気のなさが気になった。


「それじゃ、カーラさんが仲間になったお祝いしないとね」

「ケーキとか作ろっか」

「今度、武術教えてよ」


かたや、既に向こうの4人はあれこれとこれからの計画で盛り上がっていた。


これは、また賑やかになりそうだ。


「実は、一つだけお願いがあるんです」


そんな中、カーラさんが遠慮がちにそんなことを言い出す。


「どうしたの?」

「あの、私のことはカーラって呼んでください」


というのは、今まで俺達がさん付けで名前を呼んでいたことを言ってるのだろう。


別に深い意味があった訳ではないが、アバターの見た目もそうだが、話した感じで俺達より年上のような気がしたからだ。


「それは、別にいいけど。ね?」


同意を得るように、ミドリコが一堂を見回す。


俺も異議はないが、彼女がそんなことを気にするのはちょっと意外だった。


けれど。


「実は、前から憧れてたんです」


少し恥ずかしそうに、そのグリーンの目が細められる。


「なんかこういうのって、“仲間”ってかんじがして」


そう言った笑顔は、とても晴れやかなものだった。

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