自宅攻防戦②
「あ? なに口答えしてんだ」
そんな彼女の首元にイクリプスの手下の1人が掴みかかった。
「おい、やめ……」
咄嗟に助けに入ろうとした俺だったが。
「やめてください」
逆に自分を掴む手首を握り、その手に力を込めるカーラさん。
男の手がミシミシと音をたてて
「い、痛てええっ」
カーラさんが手を放すと、その勢いのまま男は床へと投げ飛ばされた。
「え」
一体なにが。
当然ながら俺や3人娘は
「てめえ、散々暴力は嫌だとか言ってたくせによ」
低いモヒカンの声にハッとした俺は、慌ててスカウターを起動させてカーラさんを見た。
「レベル……671っ?!」
同じことをしたのか、アカネの驚く声が家の中に響き渡る。
そう、それまで気にしていなかった彼女のステータス。
そこには、ランカーにすら引けを取らないレベルと戦闘力がはっきりと表示されていた。
「こいつはな、見ての通り腕っぷしは強いくせにメンタルがクソ雑魚でよ。対人ってなるとすぐに泣いて逃げ出しちまうんだ」
吐き捨てるように言うモヒカンのセリフは、にわかには信じられないものだった。
レベルが500を超えるというのは、クダラノ内では中々の廃人を意味する。
普通に毎日プレイしているとか、そこそこ強いなんていうプレーヤーとは確実に一線を
イクリプスがしつこく連れ戻そうとする理由が分かったが、そこまで極めた者が戦いが嫌だなんて言って逃げ出すことがあるのだろうか……。
……いや、短い時間ながらカーラさんと過ごした俺達なら分かる。
彼女は、そういう人だ。
ゲーム内のプログラムされたモンスターなら倒せるが、人格が宿るプレーヤーには暴力を向けられない。
そんな心の優しい人。
だからこそ、俺達の目の前で攻撃の構えを取った彼女の行動には大きな意味があった。
「出来れば誰も傷つけたくない。このまま
腰を落とし、軽く体を
その居姿だけで、彼女が相当の使い手だということが伝わってくる。
「ぐっ」
言葉が単なる脅しでないと理解したのだろうモヒカンが苦しそうな
彼のレベルは32。
俺やミドリコより遙かに強い。
けれどカーラさんと戦うのは、
このまま大人しく去ってくれるか。それとも……。
「まとめて かかれ!」
やはり、何もせず逃げ出すことは出来なかったのだろう。
モヒカンの合図で、ほぼヤケクソといった叫び声を上げイクリプスのメンバー達はカーラさんの体へと突進した。
その動きは、見とれてしまうように滑らかだった。
剣で斬りかかってきた男の1人をギリギリでかわし、水が流れるように翻した体で
「ぐおっ」
みぞおちに
数秒だけの一連の動作に、カーラさんの経験と努力、そして戦闘センスの全てがつまっていた。
「くそっ」
それを見た他の3人が同時に魔法を発動する動作に入る。
言うまでもなく、素手で戦う武闘家は武器や魔法を持つプレーヤーに対し圧倒的に分が悪い。
特に1対1なら何とかなる場合もあるが、複数人が相手となるとどうにもならない。
「カーラさんっ」
それに気づいて、せめて敵の妨害だけでもしようと杖を持って身を乗り出した俺だったが。
「
高々と蹴り上げたカーラさんの長い脚が宙を舞う。
その重い衝撃波だけで、空気が震え、魔法を口にする途中だった男達は3人とも壁に叩きつけられていた。
しばら経ってから床に崩れ落ちてきた体が、その術の威力を物語る。
「す、すごい……」
思わず呟いてしまったヒロカと、この場の誰もが同じ気持ちだったろう。
武術を極めし者は、魔法以上の奇跡を起こす。
昔 聞いたその言葉の具現を、俺は
「こ、このおおっ!」
最後の1人となったモヒカンが肩に担いでいた剣を振りかざし襲いかかったが、その結末は俺達ですら残酷に思えるほどあっけなかった。
「……なっ」
剣の刃を、白刃取りの
「ごめんなさいぃー-っ」
モヒカンの胸部に力の限りの膝蹴りを叩き込んだのだ。
『HP残量なし。プレイヤー“ピート”、強制ログアウト』
『HP残量なし。プレイヤー“ビッグガン”、強制ログアウト』……
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