自宅攻防戦①

「やっぱり ここで当たってたみたいだな」


武器を肩に担いだ先頭のモヒカン頭の男が言う。


「こんな所に家なんて作って、生意気じゃねえか」

「お前ら、こないだのイベントでブレイブブルさんに盾突いた奴なんだってなあ」


それを皮切りに、ニヤニヤと広間に土足で上がり込んでくる侵入者達。


「出ていけっ」


アカネが作り、ヒロカが飾りつけ、俺とミドリコを送り出してくれる場所。


そんなこの家を汚され、瞬間的に俺は頭に血が上っていた。


「はあ? イキってんじゃねえよ」

「お前がアタルとかいう調子こいてる雑魚か」


俺の怒りなんて意に介せずに嘲笑あざわらうイクリプスのメンバー達。


それはそうだろう。スカウターで見た奴等のレベルは30越え。


とても、俺達が叶う相手ではない。


「けど、お前ら運が良かったな」


しかし、モヒカン頭は何故か小馬鹿にしたように口元をつり上げた。


「なんだと?」

「俺が指示されてるのはカーラを奪い返すことだけだ。大人しくそいつを渡せば今は見逃してやるぜ」


そんな言葉に、カーラは体をガタガタを震わせ始める。


「わ、私が行けば……」

「行かせる訳ねえだろ!」


まるで その言葉の先は言わせまいとするように、アカネが足元にあったバケツの中身をモヒカン達にぶちまけた。


入っていたのは暖炉の灰。


「ゲホっ、何しやがる!」

「このアマ! ゴホっ」


「うるさい、クソ野郎共!」


黒く染まった顔で咳き込みながら怒鳴るイクリプスと、それに負けじと言い返すアカネ。


「カーラさんは絶対渡さないからな!」


おまけでバケツを投げつけるタンカは、どちらが悪役か見分けがつかない。


「優しくしてやってりゃ、図に乗りやがって」


ワナワナと震えるモヒカンが、かざした右手に炎を浮かべる。


「お、おい」


ここは家の中だぞ、そんな魔法使ったら火事になるだろうが……!


慌てふためく俺は、まさかこんな状況でのバトルなど想定しておらず、どうすれば良いのか分からなかった。


使える魔法はフユウ……いや、天井に頭をぶつける。

アトラクトは何の役にも立たないし……。


「ジブール!」


そんなオロオロする俺の隣から冷静なミドリコの詠唱が聞こえてくきて、最適解である水魔法をくり出し見事にその火種を消し去ってくれた。


「このやろうっ」


さすがにこちらの反撃に怒りが頂点に達したのか、今度はびしょ濡れとなったモヒカンが持っていた武器で斬りかかってくる素振りを見せた。


「うるさいっ、出ていけハゲ!」


そんな彼等に、すかさず頭上から黄緑色の液体が降りかかる。


「ヒロカ!」


俺も驚いてあおぎ見ると、いつの間にか階段を上っていたヒロカが手に大きな壺を持って階下を睨みつけていた。


「な、何をかけやがった」

「うわ、臭ぇぞこれ!」


自分達の体にまとわりつく怪しいドロドロに、さすがのイクリプスの奴等も不安そうな声をあげる。


「実験中に失敗してできた魔法。その液体が触れた部分だけ剛毛になる」

「はあっ? 何だその地味に嫌な魔法は!」

「30分以内に洗い流すしか解除する方法はないから」


冷やかな目で見下すヒロカに怯んだようなモヒカン達だったが、何とかその場に踏みとどまった。


「こ、ここで手ぶらで帰る訳にはいかねえ!」


どうやら、彼等は彼等で必死な様子だ。


カーラを連れ戻せずに帰ったら、イクリプスの上の奴にきっと酷い目に遭わされるのだろう。


「おい、もう手加減するな。他の奴等もこの家も滅茶苦茶にしていい。とにかくカーラを捕まえろ!」


そんな号令で、それまで浮足立っていたイクリプスの奴等の目に再び殺意がこもる。


仕方ないとはいえ、これは まずいことになった。


ここまでくれば、向こうは躊躇なく俺達へ危害を加えるだろう。


元々圧倒的にレベルが上の相手。

この家を守りながら戦うなんて、正直にいえば無理だと思った……。


せめて 上手く交渉して出ていってもらうか、隙を見てアトラクトで家から追い出すのが精々。


互いの戦力差を考えた時、とてもそれ以上の抵抗は思いつかない。


そんな、少し諦めにも似た気持ちを持ってしまった俺が歯がみをした時。


「出て行ってください」


それまで俺達の後ろに隠れるように立っていた体が、モヒカン男の前へと進み出る。


「カーラ、さん」


まだおびえの残る目で敵を睨みつける姿を、俺達さえも驚いて見つめた。


「お、やっと俺達の元に戻る気になったか?」


ニヤリと笑うモヒカンを微かに見上げた彼女は、グッと両手を握りしめる。


「わ、私は、あなた達の言いなりにはなりません。それに、この家や皆にも手出しはさせない!」


震える声で言い切った一言は、今までの彼女のどんな言葉よりも心の底から出てきたものだと思えた。

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