秘策③
「そう、例えばそれがモンスターだとしても」
「え、じゃあ例えばバンバインとアタルの体を引き寄せ合う……ってのも可能ってこと?」
珍しく難しい顔のアカネに俺は笑い返す。
「そういうこと」
「で、でも!」
話を
「それぞれ石に杖を触れてたよね。それは何で?」
その質問に、俺は内心で
この一瞬で、よくそこまで気づいたものだ。
「それは、アトラクトを使う場合は事前に自分の魔法力を対象に
そう言うと小難しいが、要はそれぞれに自分の魔法力(今回の場合は杖の魔力)で目印をつけておく。
アトラクトは、その目印がついた人や物同士が互いを引っ張り合う魔法と言い換えることも出来る。
どちらか片方の引力だけが強くても弱くても良い感じにならないので、そのバランスを調整するのが何よりも難しい。
ちなみに、自分自身や所持アイテムは既に魔法力が付与してる状態なので、それ以外にどうやって目印をつけるかが鍵となる魔法なのだ。
「でも、それならバンバインに事前に触れていなければダメじゃないの」
ここまでの流れを理解したミドリコが、がっくり肩を落とした。
そう、バンバインと繋がるには奴に直接魔法を付与しなければならない。
俺達にそんな機会は。
「……あ、あった!」
アカネが間近で大きな声を出すから、ちょっと耳がキーンとした。
「え?」
「ほら、一番最初のあたり!」
呆気にとられるミドリコの肩をアカネは嬉しそうに掴む。
「……あ」
しばし考え、ミドリコもその場面を思い出したようだ。
小林達がバーストで周囲に迷惑をかけ、嫌な雰囲気が漂っていた時。
突然現れたバンバインに顔面を直撃されそうになった俺は
「あの時に?」
そう、杖でバンバインを弾いた瞬間。
今のアタルの能力ではとても捕まえることは出来ないと判断した俺は、せめてもと魔法付与だけは行っておいた。
アトラクトの使い道を思いついたのは、その少し後だ。
「じゃあ、いまアタルとバンバインは引っ張り合える状況ってことか?」
興奮したようにアカネが言うが、そう上手い話ばかりな訳でもない。
「この杖の魔力じゃ、遠くの相手にアトラクトは効かないだろうな」
「どれくらい近ければいいの?」
「せめて、肉眼で見える程度の距離は必要かと……」
結局はバンバインを見つけないといけないという事になる。
そして、更に言いずらい言葉を俺は口にした。
「あと、バンバインと引き合うのは俺以外の奴にやってもらいたい」
キョトンとこちらを見つめる2人。
きっと、アトラクトを使う本人である俺がやるのが一番だと思っているだろう。
「実は、アトラクトで2つのものを引き合うのは結構(かなり相当)難しい。自分が対象になってしまうと繊細な操作なんてとても出来ない」
さすがに引力に振り回されながらの魔法制御はアマテラスレベルの能力がないと不可能だ。
「分かった、私がやる」
けれど、
「いいのか?」
と聞いたものの、それが出来るのは彼女しかいない。
まだエリア上で走ることもままならないアカネには無理だろうし、ならばミドリコに頼むしかなかった。
「正直、かなり危険も
何かあれば、危ない目にあったり恥ずかしい思いをするのは彼女になってしまう。
そして、それは全て俺の魔法操作にかかっているのだ。
「大丈夫」
けれど、ミドリコの瞳に迷いや不安は一切ない。
「私、アタルのこと信じてるから」
その後、アカネの花火のアイデアなどもあり、俺達の作戦は決まった。
「ん? なんだ、この音」
「後ろから」
プレーヤー達の飛行魔法よりも強く鋭く風を切る音がレベル4エリアに鳴り渡る。
それは明らかに、俺達のいるこの場所へと
ミドリコをアトラクトの対象にすることも出来るが、ちょっとした俺の操作ミスで彼女にどんな影響が出てしまうとも限らない。
俺としてもそれは心理的負担が多い……と語ったところ
「じゃあさ、何かの上にミドリコが乗って移動するってのはどう? 例えばスケボーとか」
アカネがそんな提案をしてくれた。
そして雑貨屋で木の板や工具を調達すると、手際よく即席でスケボーを作り上げてゆく。
アイデアといい、実行力といい、この秘策はアカネがいなければ成り立たないものだった。
「あ、あれって……」
背後から高速で近づく人影。
華麗な着物の袖が軽やかに風に舞う。
アカネの作ったスケボーの上に立つミドリコが、満を持して登場したのだ。
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