秘策②

……と、誰もが思っているだろう。


「もうお前ら出番ねえんだよ」

「いても邪魔なだけだから消えろ」


集まってきた大勢の中にいた小林達が、俺を追い抜きざま肘鉄ひじてつをくらわしてゆく。


この野郎、と思ったが今はそれどころではない。


逃げるバンバインと、それを追いかけるプレーヤー達。


だが、その方角の先にはアカネがいる。


「アカネ、今だ!」


叫んだ俺の声で、刹那せつなの静寂がこの場に訪れた。


ジリリ、と何かが燃える音が聞こえた気がする。


やがて、ヒュ~ッというかすれるような音に続き


ドンッ ドンッ ドンッ


大きな音を響かせ、レベル4エリアの夜空には満開の花火が打ち上がった。


「は、花火?」


その場にいた誰もが茫然ぼうぜんと、それを見上げて立ち止まる。


そして動かなくなったのは、バンバインも同じだ。



 バンバインは光に弱い。


「だったら、スマホのライトでもいいわけ?」


昼間の作戦会議。


さらりと言い放ったアカネの言葉に、俺はまさに目からうろこが落ちる心地だった。


「スマホ、って……」


モンスターの弱点には必ず魔法か攻撃で対処たいしょしなければならない。


クダラノに長くかりきった俺は、すっかり そう思い込んでいたのだ。


「あ、スマホじゃ光量が足らないか。なら花火とか? そこの雑貨屋に売ってたし」


楽しそうにアカネは笑う。


光とは、光系魔法だけを指すものじゃない。


そんな発想が出来たのは、彼女が真っさらなニュービー(新参者)だったからだろう。


俺は、自分が固定概念に凝り固まっていたことに初めて気づけた。



 花火のまぶしさにより、バンバインの体は空中で動きを止めた。


「止まった」

「チャンスだ!」


当然、その変化には他のプレーヤー達もすぐに勘づく。


そして、バンバインが停止したのは運悪く地上から2mほども飛び上がった地点。


一番近くにいるとはいえ、地面に立つアカネにはどうやっても届かない高さであった。


「あいつ、飛行魔法持ってないらしいぜ」

「わざわざ俺らのために ありがとうな」


そんなせせら笑う声が風にのって聞こえてくる。


「お前ら用無しだから」

「ご苦労さん、もう帰っていいよ」


それは小林達でなくとも優越感を感じてしまうシチュエーションだろう。


弱小パーティーが必死に頑張ってバンバイン制止に成功するも、あと一歩で万策尽きてしまう。


そこを、そいつらが喉から手が出るほど欲しかった魔法を使って横からさらってゆく。


性格の悪い奴なら、誰もが にやけてしまう展開だ。


「ミドリコ、行くぞ」


体の横を飛行魔法で追い抜いてゆくプレーヤー達の風音に負けぬよう、俺は大声で叫んだ。


「うん!」


遙か後方から聞こえる凛々しい呼応こおう


……でも、性格の悪さなら俺達のほうがずっと上だ。


「フユウ」


それまで背中に担いでいた紫石の木杖を天に掲げ、その呪文を唱える。


そして。


「アトラクト!」


俺は切り札の魔法を発動した。



 「けど、それだけじゃバンバインを確実に捕まえるまでには至らない。そこでミドリコとアカネにも作戦を考えてもらいたいんだ」


あの時、そう告げた俺達の話の続きはこうだ。


「まず、アタルの“唯一の勝ち筋”ってのを教えてよ」


アカネにうながされ、俺は頷く。


「今まで俺の杖にはフユウしか入ってなかったが、キャンディがアトラクトを入れてくれた。アトラクトは、引力とか引合うって意味だ」


そう説明しながら、足元に落ちてた石ころへと杖の頭を触れ、一度その場を離れる。


「アトラクト」


そう呟くと、まるで吸いつくように その石は俺の杖の間近まで引き寄せられた。


「へえ、こんな魔法もあるんだ」

「けど、これが勝ち筋なんか?」


ミドリコとアカネの言葉に、地面に落ちた石を拾いながら俺は口の端を上げる。


「他にも、こういう使い方もある」


言いながら、俺が持っている石と地面に転がっていた別の石へそれぞれ杖の頭を触れた。


2人は何をしているのだという顔でその光景を見ていたが。


「アトラクト」

 

再び俺が呪文を詠唱えいしょうすると、その2つの石は浮かび上がって空中でぶつかりあい、また地面へと落ちていった。


「えっ?」

「どういうこと?」


ビックリする彼女達の反応に満足した俺は、杖を片手に語り出す。


「引き合う力は自分と物質だけではなく、物質同士にも有効ってことだ」


だが小林達へフユウで岩を降らせたのと同じように、それは難しい技術を要する。


魔法力の適切な分配、発動のタイミング、力の入れ加減と抜き加減。


何か一つでも狂えば途端に成立しなくなってしまう。


MPはないが、経験だけは無駄にある俺だからこそ出来る芸当だった。


が、その部分は隠して話を進める。


「……つまり魔法をかければ、別々のものを引っ張り合わせられる。ってこと?」


よく分からないながら そこまで推理したミドリコはさすがだ。

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