レベル4エリア①


 レベル4エリアを一言で表すなら、とにかく森、森、林……といったかんじだ。


クダラノ内の各エリアの広さはまちまちだが、このレベル4エリアは俺の住んでいる区と大体同じくらいの面積らしい。


そう聞くとそれほど大きくないような気もしてくるが、普段生活している土地の全てが木と緑に覆われたらと考えると中々の迫力だろう。


 「あいてっ」


現に後ろを走るアカネは地面の凹凸おうとつや枯れつるに足をとられて何度も転びそうになっていた。


「ああ! もう走りにくくてムカつくー! ちくしょー!」


スポーティーなアバターの見た目とは裏腹に、やっぱり普段エリアで活動していないと慣れないものらしい。


「そのうち動きのコツがつかめるようになるから」


その隣ではミドリコが世話を焼きながらわめくアカネと並走してくれている。


本当にミドリコがいてくれて良かった。


「でも、そのバンバインがどこにいるか分かるものなの?」


そんなミドリコに尋ねられ、俺は走りながら顔をしかめる。


「正直に言うと、当てはない」

「じゃあ、闇雲に走っても仕方なくないか?」


アカネが文句を言いたくなるのも当然だ。


クダラノ内での体力や筋力は現実世界よりもかなり強化されるが、それでも疲れることには変わりない。


「けど、全員がその場に突っ立ってたら一生バンバインなんて見つからないだろ」


一度立ち止まった俺につられて、2人も足を止める。


「どういうこと?」

「とりあえずターゲットを見つけるまではプレーヤー全員で協力する。その後は誰が捕まえても恨みっこなしってやり方。……って、さっきタイカさんに聞いた」


実際、イベントで無理難題が出された場合は相互強力することが何となくの通例になっている。


もちろん強制ではないが、そうしないと いつまで経ってもらちが明かない。


全員 時間切れで失格になるくらいなら、協力して少しでも勝利の可能性を上げるほうが賢い。


……と、その昔 アマテラスというプレーヤーが提案したということだ。


「呉越同舟、共同戦線ってやつか」


やけに難しい言葉を使うアカネに俺は頷く。


「けど、いったんバンバインが発見されたら、その瞬間から全員が敵になる」

「どうやって他のプレーヤーを出し抜くかが大事ってことね」


ミドリコの言うように、レベルで劣る俺達が格上を押しのけるには それなりの作戦が必要になってくるだろう。


そんな会話をしている時。


「バンバインがいたぞ!」


北西の方角からの声に、俺達や周囲のプレーヤー達は一斉に顔を上げた。


「行くぞっ」


俺が叫ぶ前に既にミドリコとアカネは走り出している。


バンバインがどこにいるのか、正確な場所はまだ今の時点では分からなかった。


けれど、人の流れに乗って行けばとりあえずは間違いない。


「あっちの森の中に」

「そこの木の陰から出てきたんだ」


最初にバンバインが目撃されたという地点に着くと、もう大勢のプレーヤーが集まってきていた。


そう、ここからは全員がライバル。


いかに他人より先を読み、確実に獲物を狩れるかが勝負の分かれ目だ。


「何か、バンバインの習性みたいなものはないのか?」


周囲をキョロキョロするアカネが尋ねるが、それは良い質問だった。


「バンバインは物陰とか木の根っこあたりに同化して隠れてることが多い、らしい。まずは、そういうところを地道に探すしかないな」

「そんな悠長ゆうちょうなかんじで大丈夫なの?」


のんびり答える俺に、ミドリコがちょっと不安そうに腕を組んだ時。


バアアァン


という大音響に、思わず俺達は耳を塞いだ。


残響の余波でまだキーンと耳鳴りのする中、音のした方へと目をこらす。


「い、一体なんだ?」


俺らだけでなく皆が見つめる先では、森の中から黒い煙がモクモクと上がっていた。


「バーストか?」


誰かが呟いたように、あれは確かに初級爆発系魔法のバーストだろう。


「攻撃魔法は禁止されてるんじゃ」


『先ほど、プレーヤー“小林”がバーストを使用したため、イベントスタッフより現場確認を行います』


ミドリコが言いかけたのと同時に、あの司会のお姉さんが移動用の空飛ぶ司会台に乗って上空から登場した。


さすがにこういう時の対応は素早い。


「あれあれ~? 直接バンバインに攻撃しなけりゃいいって言ってませんでしたっけぇ?」


俺達も様子を見にいくと、まだ黒煙の漂う木々の間で小林は挑発するようにお姉さんへ詰め寄っている。


「しかし、攻撃魔法を使用したということは……」

「だからー、俺達は別に何も攻撃してねえって!」


そう言いながら、竹内が空中で再びバーストを炸裂させた。


再び耳を襲う爆発音と閃光に、その場の誰もが慌てて目をつむり耳をふさぐ。


「ほらな、他の奴等もエリアも傷つけてねえじゃん?」

「ちゃんと分かりまちゅか~?」


ヘラヘラとする奴等が言いたいのは、バーストは何もない空中で使用しているだけ。


言われたルールには抵触ていしょくしていない。ということなんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る