バンバインを探せ③

それを伝えたら、さすがにアカネでもガッカリするかと思ったが。


「そっかー。じゃ、他の方法で頑張るか」


その顔は、いつもと全く変わらない様子でニカッと笑った。


「……ああ」


ちょっとだけ面食らってしまった俺は、隣のミドリコと視線をかわわす。


クダラノは没入感が強い分、死ぬか生きるかのレベルで本気になってしまうプレーヤーも多い。


それはそれで一つのスタイルなのだが、そうすると義務感や緊張感が生まれ、いつしか気楽にゲームを楽しめなくなってしまうことも多い。


俺は、こいつらと仲間で良かったと心から思った。


 「おい、やりたくねぇとか ふざけてんのかよっ!」


そんなことを思っていると、逆に他のグループからはそんなガラの悪い声が聞こえてきて。


「あれ」


振り返ると、そこには またもや1番会いたくない連中。


小林、竹内、木暮の3人が少し離れた場所で男性プレーヤーの体をどついて何事かを怒鳴りつけていた。


「ちょっと、あんた達なにやってんのよ」


同じようにその様子に気づいたビクトリアさんが止めに入るが、彼等は「ああっ?」と横柄に凄む。


「ババアがイクリプス様にしゃしゃってんじゃねえよ!」


その言葉に、俺、ミドリコ、アカネは思わず顔を見合わせた。


そしてイクリプスという名が出た途端、周囲も小さくザワつく。


「へっ、ビビったか? 俺達イクリプスに盾突いたら、どんな目に遭うか分からないぜ」


「お前ら、イクリプスに入ったのか?」


ビクトリアさんと偉そうな態度をとる竹内の間に割って入ると、向こうも俺達の存在に気づいたようだった。


「あ? お前らまだいたの?」


攻撃対象を変えて、小林は俺を睨んでくる。


何て言い返してやろうか……と少しだけ考えたが。


「あれ。アタルに強制ログアウトさせられた時、あんた「覚えてろ」って言ってなかったっけ? いつリベンジに来るのかと思ってたんだけど?」


俺よりもミドリコのほうがあおりスキルは高いようだった。


「な、なんだと……っ」


顔を真っ赤にして地団駄を踏む小林達に、周囲はヒソヒソと笑い出す。


「お、覚えてろよ!」

「クソ女が」


「今度はそっちがちゃんと覚えてろよー」


アカネの煽りの追撃を背に、彼等は逃げて行った。


しかし、このエリアにいるということはイベント中はまた嫌でも顔を合わせることになるだろう。


何だか気が重かった。


「あれ、君達の知り合いだったのか?」


その様子を見ていたタイカさんに尋ねられ、俺達は渋々頷いた。


出来れば他人のフリをしたいが、嘘をつく訳にもいかない。


「あいつらが入ってから、イクリプスの悪行が加速してるって噂になってるぞ」


少し言いづらそうにだが彼は教えてくれた。


「悪行?」

「初心者からアイテムや金を巻き上げたり、何も知らないプレーヤーを騙してイクリプスの連合に加盟させたり」


あいつら、そんなことまでやっていたのか……。


「ぼ、僕もただイベントを一緒に回ろうって誘われただけだったんです」


そんな俺達の会話に、さっき小林達にどつかれていたあの男性プレーヤー(プレーヤー名:ボーテ)が入ってきた。


「ああ、あんた大丈夫か?」


タイカさんが声をかけるが、見るからに弱々しそうなその表情は青ざめている。


「誘われた、ってどういうこと?」

「そのままだよ。イベント直前にちょうど前のパーティーが解散して1人だった僕に、一緒に楽しもうって彼等が近づいてきたんだ」


ミドリコの問いに答える口調は少し震えていた。


「それが実際ここに来てみたら、イクリプスとかいう連合に無理やり加入させられて、他のプレーヤーの妨害をしろって言われた」


それで、あのような揉め事になっていたらしい。


「あいつら、そんな騙し討ちみたいな真似してるのかよ」


呆れたようにアカネが言うが、それは少し……というか、かなりまずい状況だ。


そんなことを続けていたらプレーヤーはイクリプスに委縮いしゅくし、ゲームを楽しめなくなってしまう。


ひいては、クダラノワールドにとっても いつか重大なダメージとなる。


あんな奴等をのさばらせておいて、運営も何を考えているのか。


『それでは、開始まであと1分! 制限時間はこの時計が夜の12時を指すまででーす』


俺達がどことなく沈んだ雰囲気になっているうちにも、イベントのスタートは近づいていた。


今は正午、昼の12時。


終了は24時だから、クダラノ内の時間で半日ということになる。


「とにかく、お互いイクリプスの連中には気をつけよう」


ボーテさんを仲間に入れてあげたタイカさんに囁かれ、俺も無言で頷いた。


『それではー、5、4、3、2……』


カウントダウンの声が響き、レベル4エリアは一瞬だけの静寂せいじゃくに包まれる。


『イベントスタートー!』


「よし、行こう」


俺はミドリコとアカネに声をかけ、共に森へ向かい走り出した。



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近況ノートにも書かせていただきましたが、ページの追加と内容の加筆を行いました。


・追加 1ページ目

・加筆 23ページ 朽だら野の少年


前々から、あのセリフ入れ忘れた!と悩んでいたものだったのですが、この機に修正させていただきました。


既に読んでいただいた方には申し訳ありませんが、何卒ご了承くださいませm(__)m


2024.06.01

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