バンバインを探せ②

要は逃げたバンバインには隠れやすく、探すプレーヤーには見つけにくいということになる。


「あ、でもさ。それなら森ごと燃やしちゃえばよくない?」


そろそろ言うだろうと思っていたセリフをアカネが言った。


『注意事項ですが、バンバイン以外を攻撃しエリアや他プレイヤーに損傷を与えた場合は失格となります! 故意でなくとも対象となりますので お気をつけください!』

「だってさ」


タイミングよく告知してくれたお姉さんの言葉に、アカネは頬を膨らませていた。


「でも、それだと魔法が使えないってこと?」


代わって疑問を口にするミドリコに、俺は首を横に振る。


「あくまで周囲を巻き込むなってことだ。例えばバンバインだけをピンポイントで攻撃する魔法は問題ない」


だが万が一攻撃が大きくはずれてしまえば失格になるし、バンバインごと消滅させてしまうと中の引換券もおじゃんとなる。


そのへんの力加減も、今回のイベントを勝ち抜くための肝になるのだろう。


 「おう、お前達も来てたのか」


イベント開始まであと10分。何だかんだ話していた俺達の背後に3つの人影が立った。


「あ、タイカさん、ビクトリアさん、それにアビー」


ミドリコが嬉しそうに声をあげたように、振り返るとそこには見覚えのある顔達がいた。


「お久しぶりです」


いうまでもなく、彼等はあのレプティリアンを倒した時に出会ったトリアエズの町の住人達だ。


タイカさんとビクトリアさんは時々ミドリコの特訓につきあってくれたり、今でもこうしてつきあいがある。


「おう、アタル! 俺はレベル1になったぞ!」


そして、あの時 俺に回復薬をくれた少年アビー。


会うのはあれ以来だったが、元気そうで何よりだ。


「そうか。すごいな、俺なんてまだレベル0のままだ」


そうお世辞もこめて言ってやった。


「……なあなあ」


けれど、周囲を見回した顔が俺へとこっそり近づいてくる。


「なんだ?」

「俺、実はアマテラスに会ったんだ」


まるで秘密を打ち明けるように告げられ、俺はちょっと固まった。


前言撤回。そういえばアマテラスとしてトリアエズへ行った時に声をかけられたのだった。


言い訳のようだが、アマテラスでいる時はやることや考えることが多すぎて、どうしても色んなことが忘れっぽくなってしまう。


「へ、へえ、そうなんだ」

「へえって何だよ。アマテラスだぞ、アマテラス! もっと驚け!」


勢い込んで怒られるが、それは俺の口からは何とも言えない……。


「ていうか、なんで そんなコソコソしてるんだよ」


アマテラスに会ったことが嬉しいなら堂々と言えばいいものを。


「だって俺があのアマテラスと喋ったなんて言ったら絶対嘘つき扱いされるじゃん」


とアビーは口を尖らせる。


「じゃあ、どうして俺には言ったんだよ?」


別に他意はなく聞いたのだが、逆にアビーはハッとした表情をみせた。


「そういえば、何でアタルに言ったんだろう……」


自分でも不思議そうに考え込む姿に、俺は息を飲み込む。


もしや、気づかぬうちにアタルとアマテラスが同一人物だとバレる言動をしてしまっていたか?


いや、大丈夫なはずだ。でも……。


そんな人知れずちょっとパニックになっていた俺だったが。


「うーん、アタルはアホだし信じてくれそうだから、かな?」


悪気なくアビーは言った。


「お前なあ」


額に出る青筋をこらえながら、なんとか笑顔を作る。


きっとこいつとキャンディは気が合うに違いない。


「ねえ、アタル。タイカさん達がバンバインの弱点を教えてくれたの」


そんな俺達から少し離れた所で話していたミドリコがこちらへ声をかけてきた。


「弱点?」


当然知っているが、俺は初耳のような顔をつくる。


「そう、光に弱いんだって」


ミドリコと並んだアカネが言う通り、バンバイン唯一の弱点は光系の魔法。


目くらましを食らうと、数秒ほどはその素早い体が動かなくなってしまう。


「だから、光系魔法で弱らせて、その隙に飛行魔法で追いかけるっていうのが一番効率が良い捕まえ方かな」


ビクトリア さん ― 女性の戦士の人 ― も敵でもある俺達にバンバインの攻略法を丁寧に教えてくれる。


「そっか、弱点が分かれば楽勝じゃん!」


その話を聞いていたアカネが明るく言い放つが。


「…………」


俺とミドリコは無言。


「え、もしかして」

「すまん。俺達、どっちも光属性も飛行魔法も使えないんだ」


隠しても仕方ないので正直に白状した。


ご存知の通り、俺はMPが0なので使える魔法は杖に入っているフユウ(浮遊)とアトラクト(引力)のみ。


ミドリコも水系魔法を集中的に覚えているため、他の系統はまだ取得しゅとくできていない。

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