バンバインを探せ①
「おいおい、レベル0が2人だってよ」
「いくら初心者OKとはいえ、さすがに空気よめよな」
レベル3が1人とレベル0が2人の俺達のパーティーは、予想はしていたが周囲から隠されることもなく笑われていた。
「んだとぉ、あいつら殴ってくる!」
気の短いアカネがいきり立つのを止めるのも既に3度目だ。
「落ち着け、一々相手にしてたらキリがないぞ」
「そうそう。私達がイベントで勝って見返してやればいいんだから」
と一緒に宥めてくれるミドリコがいて心から良かったと思った。
イベント当日。
会場となるレベル4、67、301、588、723、919の6つのエリアのいずれかに、参加者は集められる。
どこのエリアに行っても自由だが、大抵は自分のレベルに一番近い場所を選ぶため、俺達はレベル4エリアの中央広場へと来ていた。
とはいえ、一番低レベルのエリアとはいえ周囲は俺達より遙かに強い奴等ばかり。
それもあり、さっきから こうしてプークスクスと笑われっぱなしなのであった。
しかし、昔というか数年前までは決してこんな雰囲気ではなかった気がする。
この短い間で、クダラノの中で何かが変わってしまったのだろうか。
『お待たせしました! それでは、本日のイベントのルールを発表します!』
そんなアナウンスが聞こえてきて、俺は我に返り顔を上げた。
広場の中心には高台が設けられ、司会の女性がマイクを持って立っている。
確かトリアエズのギルドの職員で見かけたことがあるから、今日の進行役に駆り出されたのだろう。
『ルールは簡単! 皆さんには、バンバインを
バンバインか。なるほど、考えたものだ。
「バンなんとかって、一体何なの?」
どうやらミドリコとアカネはまだ その存在を知らないらしい。
「こう、丸くて黒いモンスターなんだけど」
俺は自分の手の平サイズくらいの円を宙に描きながら説明する。
「そいつが、とにかく跳ね回るモンスターなんだ。しかも逃げ足が速くて捕まえるのに一苦労する」
俺も何度か
「モンスターのほうから逃げてくれるなら、別に害はないんじゃない?」
アカネが当然の疑問を口にするが
「普通はそうなんだが、こいつはプレーヤーの武器やアイテムを盗む習性があるんだ」
他のモンスターとの戦闘に気を取られている最中や、持ち物を置いて休憩している時なんかを奴らは狙う。
「で、それを自分の体の中にしまいこんで逃げるんだ」
「それで逃げ足が速いんだ」
ミドリコが言うように、普通のモンスターなら勝手に逃げてくれて一向に構わない。
しかし、大事な武器やアイテムを
しかも その体を攻撃をすれば中の持ち物まで壊れてしまう可能性があり、何とかバンバインを生きたまま捕獲し持っていかれたものを取り出すしか方法はない。
「じゃあ、今回のイベントはその逆をついたってことなのか」
ここまでの説明で状況を理解したアカネは笑っているが、それは自分がバンバインの被害に遭ったことがないからだ。
ほとんどのプレーヤーはあの黒丸のフォルムを見るだけど過去の怒りが沸々と蘇っているに違いない。
『このバンバインの中にクダラノポイント1000分の引換券が入っています! 各エリアに放たれるバンバインは1体ずつ、是非捕まえてポイントをゲットしてくださいね!』
ということは、1エリアにバンバインは1匹。
それをこれだけ集まった大勢のプレーヤーで奪い合うことになる。
「でも、ここって一番 人が多そうじゃない?」
ミドリコが心配そうに周囲を見回すように、1番簡単なエリアに最も人が集まるのは自然なことだ。
ならば上のレベルのプレーヤーが少ないエリアに行けばいいかといえば、それもまた違う。
「強いエリアにいけば、それだけモンスターや環境の仕掛けレベルも高くなる。そうするとバンバインを探すどころじゃなくなってしまう、と思う」
例えば今回指定された一番レベルが上のエリアは919。
今の俺達の実力だと、最初に遭遇したモンスターに
「じゃあ、やっぱりこのレベル4エリアにいるのがいいのか」
アカネがぐるりを見渡し、諦めたようにため息をつく。
レベル4、67、301、588、723、919エリアは、難易度こそ違えど共通点は多い。
まず、どこもエリア内のほとんどが森で構成されている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます