イベントに参加してみましょう③

「ボクとヒロカお姉ちゃんは、ちょっと鍋の前を離れられないんだ」


代わりに答えたキャンディが、窓の外を視線で示した。


彼女達の魔法開発用の部屋は、この家の庭に作られることになった。


元は物置きにしようとしていた小屋を改造し、不気味な道具や怪しい本が運びこまれ、俺も中を覗いてみたが中々の雰囲気をかもし出している。


たまに爆発音が聞こえてくることもあるが、キャンディとヒロカは最近はそこにこもって楽しくやっているようだった。


「そんなに時間がかかるものなのか?」


イベントは3日後。


まだまだ時間はありそうな気がするが。


「はあ~、これだから素人は困るのだ」


わざとらしくため息をつくキャンディの嫌味はとりあえず聞き流してやることにした。


「10日間煮込まないと溶けない鉱石で実験をしてる最中さいちゅうなの。キャンディと私で交代でついてないといけなくて」


ヒロカに申し訳なさそうに説明され、それなら確かに3日後の参戦は難しいだろうと納得した。


「そっか。じゃあ、俺とミドリコ、アカネで行ってきてもいいか?」


皆の事情を考慮して、俺はそう提案をしたのだが。


「え、うち!?」


何故か当のアカネは飛び上がらんばかりに驚く。


「家作りも一段落してるだろ?」


まだ完成までには至ってないが、後はゆっくりやれば良いと自分でも言っていたじゃないか。


「そ、そうだけど……」


急にモジモジと小さくなる様子に俺は眉をひそめた。


普段あんなにハキハキ物事を言うくせに、一体どうしたっていうんだ。


「アカネは、自分が一緒にいったら私達の迷惑にならないか気にしてるのよね」


けれど、そんなミドリコの一言で俺は初めてそんな思考に思い至った。


普段は外に出て戦闘の訓練をしている俺とミドリコ。


アカネとしては、全くの素人の自分が足手まといにならないか悩んでしまったのだろう。


「お前、そんなこと気にする性格か?」


思わず思ったことを呟くと、他の女性陣から一斉に睨まれてしまった……。


「これだから乙女心の分からない朴念仁ぼくねんじんは」


これまたキャンディにため息をつかれてしまうが、この場合は明らかに俺のほうが分が悪そうだ。


「そんなの気にするなよ。さっきも言ったけど気楽なお遊びみたいなもんなんだから」

「でも……」


気を取り直して再び誘ってみても、アカネの表情は晴れない。


案外、人に気を遣う性格なのかもしれない。


「それに、俺だってアカネと一緒にプレイしてみたいって思ってたしさ」


だから、深く考えず続けてそんなことを言ったのだが。


「え、えぇっ!?」


その一言に、やけに大きく反応されてしまった。


「な、なんだよ」

「だ、だって、アタルがそんなこと言うとか珍しいじゃん!」


互いに大声を出す俺達を他のメンバーは可笑しそうに見ていた。


「別に、前から思ってたし」


それは嘘ではなく、機会があればアカネやヒロカともエリアに出たいと考えていたのは本当だ。


「ふ、ふーん。まあ、そこまで言うなら行ってやってもいいけど」


まんざらでもない風に腕を組む態度は、すっかりいつもの偉そうなアカネであった。


こいつは前にヒロカのことをツンデレと言っていたが、自分だって人のことを言えないと思うのだが。


「じゃあ、この3人で参加ってことでいいな?」

「りょうかーい」


とりあえず まとめると、周りからは賛同の声があがった。


そうすると、イベントに参加届けを出して、会場になるエリアを下見くらいしておくか。


「何か準備することはある?」


ミドリコにも聞かれたが、イベントの内容が発表されるのは当日。


それまで、対策できることは何もない。


「ログインの時間を間違えないようにするくらいだな」

「それだけ?」

「そもそもダメ元の参加だし、あんまり真剣になることないだろ」


1000ポイントも貰えるとなれば、普段はイベントに参加しないような連中も押し寄せてくる可能性が高い。


あまり頑張りすぎるのも精神上よくないし、俺達はそんなガチなパーティーじゃないだろう。


「まあ、気楽に楽しもうぜ」


俺から皆に出来るアドバイスは、それくらいのものだった。

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