白金色の初恋①


 「きゃあっ、可愛いー!」

「これ、本物の狼の耳じゃん」


帰った時のヒロカとアカネの反応は、まあ予想通りだった。


しかし、2人に撫でられたキャンディが一瞬デュフッという笑いをしたのを俺は見逃さなかった。


「うわあ、ミドリコお姉ちゃん以外にもこんな可愛いお姉ちゃん達がいっぱい!」


そんな鳥肌がたつようなセリフとともに、狼少女はヒロカの体へと無邪気に抱きつく。


こいつ、本体はエロ親父とかじゃないだろうな……。


「魔法開発ってのをするなら、専用の部屋があったほうがいいんだろ?」


眉をひそめてそんな様子を見守っていた俺にアカネが尋ねる。


「あ、ああ。道具とか資料もあるし、広めのスペースのほうがいいと思う」

「じゃあ、明日それ用の部屋を作ってやるよ。まだ空きはいっぱいあるからな」


すっかり現場仕事が板についてきた姿が何とも頼もしい。


「やったあ、ありがとうアカネお姉ちゃん」

「明日から色々教えてね、キャンディ」

「うん! こちらこそよろしくね、ヒロカお姉ちゃん」


そんなやり取りを眺め、俺は広間のテーブルに座ったまま ため息を吐く。


まあ顔あわせは上手くいったようで、とりあえずは良いことだ。



 「でもさ、不思議だよね」


お喋りが一段落したところで、皆でテーブルを囲んでとりあえず茶でも飲もうということになったのだが。


端の席についた途端キャンディは、わざとらしく呟いた。


「何がだよ」

「こんな素敵なお姉ちゃん達と、冴えないアタルが何で一緒にいるの?」


軽く俺の心をえぐってくる質問。


「冴えないって、お名前な」


まあ本当のことだから否定は出来ないが……。


「アタルと私達は同じ学校のクラスメイトなの」


半分完成したキッチンからお盆に乗せたお茶を持ってきたミドリコが代わりに説明してくれた。


「へえ、リアルでの知り合いなんだ」


俺達を見返すキャンディは、その答えで納得したかと思ったのに。


「じゃあ、この中の誰かとつきあってたりするの?」


これまた余計な発言をかましてくれた。


「つ、つ、つきあうって……ないない!」


何故か挙動不審に立ち上がったのはヒロカ。


「何か、アタルはアタルって生き物だしなあ」


アカネに至っては笑い飛ばし


「……こうして、皆で友達でいるのが楽しいしね」


ミドリコは、気を遣ったようにり成してくれた。


実は、俺としてもキャンディにそんなことを言われて少しドキリとしていた。


あまりに住む世界が違う女子達だったから、今まではそんな可能性を考えたこともなかったのだ。


「まあ、アタルとお姉ちゃん達じゃカースト層が違いそうだもんねえ」


あげくに、まるで実際を見てきたかのようなことを言われてしまう。


「それどころか、恋愛もしたことなさそう」


更に調子にのってキャンディがいじってくるから、俺は茶を飲みながら憮然ぶぜんとする。


「恋愛くらいしたことある。……片思いだったけど」


聞かれたから普通に答えただけ……なのだが、向かい側に座るヒロカが口をつけた茶を噴き出した。


「ええっ、アタルにそんな相手いたのか?」


その隣のアカネまでも、あんぐりを口を開け驚いている。


「俺が人を好きになったら、そんなにヘンか?」


2人の反応に口を尖らせていると、右側にいたミドリコが慌てて首を振る。


「そ、そういう訳じゃないけど。アタルって物事に執着とかしなさそうな性格だし……」


いかにも動揺を隠しながらフォローしてくれる姿が何だか申し訳ない……。


「あ、相手ってどんな人? うちの学校の生徒とか?」


口元をハンカチで拭いたヒロカの言葉に、俺の脳裏には白金プラチナの長い髪と、虹色の瞳が浮かび上がった。


「いや、年上だけど」


聞かれたから答えているだけなのだが、キャンディを含む女性陣は目を爛々らんらんとさせて俺を見ている。


人の恋愛話なんて、そんなに興味あるものか?


「それで、どこで知り合ったの?」

「えーと……、ネットで仲良くなって」


実際はクダラノ内でだが、それを言うことは出来ないので ぼんやりと誤魔化した。


「いつの頃のこと?」


続けてミドリコに尋問のように畳みかけられ、俺は頭の中で計算する。


「俺が10歳の頃から去年まで、かな」


いつから好きになったなんて、正確には分からない。


けれど、母さんを亡くして落ち込む俺に寄り添い、ずっと励ましてくれたインティ。


クダラノが世の中に知られていない頃はプレーヤーも少なくて、いつも一緒に冒険をした。


そんな人を好きになるのは、自然の成り行きだった。


「じ、10歳!?」

「めちゃくちゃ長い片思いじゃない!」


皆はまたもや過剰に反応するが、それほど驚くことだろうか。

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