狼少女②

腹の中で悪態をついていると


「ミドリコお姉ちゃん達は、どれくらいのプレーヤーなの?」


逆にキャンディから質問された。


「私達も、まだクダラノを初めて2週間くらいなんだ」


正直に答えるミドリコに、キャンディは驚きの表情をみせる。


「え、2週間でもうレベル3? すごい! 戦闘センスやばい!」


大袈裟にそうたたえた後


「なのに、なんでアタルはレベル0なわけ?」


冷やかな視線で言われてしまった。


まあ、何となくこいつならそこを突っ込んできそうな気はしていた。


「俺は、色々忙しいっていうか」


と言ったのは半分嘘で半分本当。


アマテラスのほうで何だかんだあったし、自分よりミドリコの特訓を優先していたというのもある。


しかし、実は俺は前々からやってみたいことがあったのだ。


「レベル0でしか出来ないことってあるだろ」


打ち明けるように言うと、目の前の2人は小首を傾げる。


「どういうこと?」

「例えば、クダラノにはMPを探知してプレーヤーを攻撃するモンスターってのが多くいる。けどMPの無いレベル0なら気づかれることなく近づける」


これはMPが1でもあったら意味がないので、唯一レベル0の時分にだけ許された特権だ。


当然リアルなレベル0の時はそんなことを考えている余裕はないが。


「え、そんなことのためにレベルを捨ててるってこと?」


うわぁ……とでも顔に書いてありそうなキャンディに呟かれ、俺はちょっとだけ傷ついた。


「ほ、他にもレベル0だと、その期間だけ条件を満たすことによって即死回避の裏技があったり。公式は認めてないけど回避率や防御力のアップが発動したり、そのあたり研究したら面白いんじゃないかなー……って」


珍しく俺がこんなに喋ったというのに、ミドリコはポカンとしているしキャンディは相変わらず見下すようなさげすむような目でこちらを見ている。


まあ、俺が本当にレベル0だと思っているこいつらからすれば、一体何を言ってるんだと思うのは至極真っ当だろう。


クダラノでは、まずレベルが上がらないことにはエリアを進むことは困難だ。


冒険をメインにしたプレーヤーの場合、エリアを攻略する以外にすることはないのだから、何のためログインしてるだという話になる。


俺がこんな余裕なことを考えていられるのは、アマテラスとして既に活動を極めた経験があるからこそなのだ。


「アタルは、今まで戦いはミドリコに任せきり?」


また馬鹿にされるかと思いきや、ちょっと神妙しんみょうな顔つきになったキャンディが俺に尋ねた。


「ううん。アタルもモンスター倒したり、このあいだはPvP?で他のプレーヤーに勝ったんだよ!」


俺の代わりに応えるミドリコに、キャンディは心底驚いた様子だった。


「レベル0で、どうやって!?」

「ああ。知り合いの武器屋に譲ってもらった、この杖の潜在魔法で……」


と俺が見せた杖をキャンディは無言でひったくる。


……この野郎。


内心イラッときたが、魔法開発をしてるだけあって その目は真剣に杖を見つめていた。


「これ、重力系の魔法が1つ入ってる程度じゃないの?」


さすが一目見ただけでそれが分かったらしい。


「ああ、フユウだけだな」

「それで一体どうやって戦うっていうのさ?」

「入ってる魔法が1つだけな分、そこそこ強力な威力になるんだ」

「っていっても、この杖のかんじだとレベル15程度? 攻撃魔法がないってことは……」


何故かその場で話し込んでしまった俺とキャンディを隣で眺めていたミドリコだったが。


「あはは、何だか兄妹きょうだいみたい」


そんなことを言って笑い出した。


「えっ?」

「はっ?」


同時に抗議の声を上げ、顔を見合わせた俺とキャンディは また同じタイミングでプイッと顔を背ける。


こんな腹黒い奴が妹なんて、冗談じゃない。


「とりあえず、ヒロカとアカネにも会ってもらおうよ」


しかし、仲間にする流れになってしまった以上は仕方ない。


「……そうだな」


小さく息を吐き、俺の胸の高さくらいしかない身長に向き直る。


何だか面倒な奴を拾ってしまった気がしないでもないが。


「ほら、行くぞ」

「う、うん」


投げやりに差し出した俺の右手に、黒いケープの下から小さな手が伸ばされる。


西日に照らされたキャンディは、その時どんな表情をしていたのか分からなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る