狼少女①
仕方なく俺も従ってその前に立つと、段ボールには「どうか拾ってください」とご丁寧に書かれている。
本格的にヤバい奴だ。
「どうかしたの?」
なのに優しく話しかけるミドリコを、狼少女はウルウルと見上げる。
「実はボク、全然 仲間に入れてくれるパーティーがなくて。こうして誰かが拾ってくれるのを待ってたんです」
そんな芝居がかったセリフをミドリコは「そうなの?」などと心から心配そうに聞いている。
「どれくらい仲間を探してるんだ?」
中腰になって尋ねた俺を見返すイエローゴールドの瞳。
……ん? こいつ今 俺のこと睨まなかったか?
「えーと、半年ちょっとくらい」
けれど、たどたどしく答える声はすぐ元の子供らしい仕草に戻った。
「半年って、現実での時間でか?」
素っ頓狂な声を出す俺に狼少女はこくりと頷く。
いくらなんでも次から次に新規者が入ってくるクダラノで1年近くも仲間が見つからないなんてあるだろうか。
案の定 何か問題を抱えてるヤバい奴なのではないか……。
そう
「じゃあ、私達の仲間になりなよ」
隣から、とびきりの優しい声が聞こえてきた。
「はあっ?」
「え、いいのっ?」
俺の
「いいよね、アタル?」
けれどミドリコからもそう振り向かれてしまえば、本人を前に拒絶することも出来ない。
「……お前、ジョブは何なんだ?」
不本意ながら、一応だが そんなことを聞いた。
クダラノ内には正式にジョブや職業という規格は存在しない。
魔法を使う奴なら魔法使い、もうちょっと格好よく言いたければ魔導士、魔法も剣術も同じくらいやってるよ、というなら魔法剣士。
要は、どういうプレーヤーかを表す名刺みたいなものなのだ。
まあ こいつの場合は、さしずめ戦闘センスがなく一向にレベルが上がらず、生意気な性格が
自分と同じ負のオーラを
「ボクは、魔法開発をしてるんだ」
ニカッと笑った口から聞かされたのは、何とも予想外なジョブ名だった。
「え、マジか?!」
それまでで一番声を張ってしまった俺に、逆に少女は驚いている。
「あれ、それって」
ミドリコも思い出したように呟くのは、それがさっきヒロカに勧めたのと同じものだと気づいたからだ。
魔法開発
それはヒーラーなんて目じゃない。探そうとしても存在そのものを見つけ出すのが困難といって良い程の超レア職業だ。
例えどんなに性根がねじ曲がっていたとしても、そんなプレーヤーが売れ残っているなんて奇跡に近い。
恐らく初心者にはその価値が分からずスルーされたのだろうが、これがもっと高レベルのエリアなら彼女を取り合って殺し合いが起きてもおかしくないくらいのお宝なのだ。
ヒロカにはああ言ったが、魔法の開発はそうそう出来るもんじゃない。
武器作りはそのへんの武器屋やアイテム屋のオヤジでも出来るが、魔法の生成となるとまったくの別物。
だからヒロカには独学で学んでもらうしかないと思っていたのだが、まさかこんな所で専門職に出会えるとは。
「一応聞くが、生成できる魔法のレベルは?」
「うーん、ブレイズとかソノラあたりなら」
口にしたのは、どちらも火属性と空属性の初級の上といったレベル。
しかし、1年で無から魔法を作り出せることが まず凄いことなのだ。
これは、かなりの拾いものかもしれない。
「それじゃ、仲間ってことでいいよね?」
そんな興奮した感情が表に出ていたのだろうか。
俺と狼少女とを見比べ、ミドリコはおかしそうに笑った。
「あ、ああ」
何となくこいつは気にいらないが、魔法開発者と知れば手放すことは出来ない。
俺が長年クダラノで培った経験と本能が、こいつは仲間にするべきだと叫んでいるのだ。
「じゃあ、これから よろしくね」
ミドリコのにこやかな言葉で、俺達は正式に5人目の仲間を迎え入れることとなった。
「俺はアタル、こっちはミドリコ。お前の名前は?」
まあ、せっかく縁があったのだから仲良くしてやろう。
そう思い、握手するつもりで右手を差し出したのだが。
「ボクはキャンディ。よろしくね、ミドリコお姉ちゃん」
その挨拶はまるっきり無視し、キャンディと名乗ったクソガキはミドリコだけに明るい笑顔を向けた。
「キャンディか、可愛い名前ね」
「うん! このクダラノにはスィーティーっていうすっごいプレーヤーがいてね。ボクその人に憧れてるんだ」
アバターの見た目や名前からしてそうかと思ったが、やっぱりこいつもスィーティー信者だったらしい。
ふん、単純な奴め。
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