ギルド③
「ギルドって何?」
世界樹の家を出てミドリコと並んで歩き出した俺は、そんな疑問をぶつけられて足を止めた。
「え?」
「ギルドってとこに行くって言ってたでしょ」
隣のミドリコに当然のように尋ねられ、ああ そうかとやっと意味を理解した。
「ギルドっていうのは、なんていうか……」
クダラノに限らずゲームをやる人間だったら馴染みのあるフレーズだが、彼女にとっては初耳なのだろう。
しかし、知っている人間にとってギルドはギルドとしか言いようがない。
「……まあ、行けば分かる」
解説することを諦め、俺は町中のギルドへと足を向けた。
レベル0のエリアだけあって、トリアエズの町にはクダラノ内最大のギルドがある。
「依頼、仲間探し、売買、交換、相談……」
人で賑わう大きな建物の入口で、案内板を読みながらミドリコはちょっと圧倒されているようだった。
「色々なことをやってる場所なのね」
そう呟く通り、各種手続きや
他のエリアのギルドならせいぜい宿屋程度の建物に受付嬢が1~2人いるくらいだが、このトリアエズのギルドは4棟からなりスタッフも常に大勢が忙しそうに走り回っていた。
もちろん受付嬢やスタッフも一般のプレーヤーで、ギルド職員という肩書で日々働いているのだ。
「ここで新しい仲間を探すのね?」
「そういうこと」
ミドリコの言葉に頷きつつ、『仲間探し』と案内の出ている2号棟に俺は足を向けた。
その間にも、たむろするプレーヤーの数は増え、長い壁には大量の貼り紙が所狭しとはためいている。
「“
その紙の文字をミドリコが歩きながら読み上げる。
「求って書いてあるのは、それに特化した属性のプレイヤーを募集中ってこと。何も書いてないのは、逆に自分を仲間にしてくださいって意味だ」
2号棟はこれまた広い面積で、多くのプレイヤー達が雑談をしたり勧誘活動を行っていた。
「ヒーラーっていうのは人気があるのね」
ミドリコが言うように、特に初心者の間で一番需要が高いのは回復魔法を持ったヒーラーと言われる役割だ。
ゲームを始めたばかりのプレーヤーはとかく戦闘力を上げたがり、誰もがとりあえず攻撃型の戦士や魔法使いを目指す。
しかし、それだけではエリアのレベルが上がり強いモンスターが現れ始めると段々通用しなくなってくる。
その時になりやっとヒーラーや特殊効果魔法を得意とするプレーヤーを仲間に引き入れようと思いつき、この状況になるという訳だ。
「私達も、ヒーラーを見つけるの?」
尋ねるミドリコの声に俺は悩んだ。
「ヒーラーが仲間に入ってくれれば一番いいけど、そう簡単にはいかないだろうな」
「倍率が高いから?」
「どこでも選べるなら、ヒーラーだってレベルが高くて強いパーティーに行きたいと思うものだろ」
わざわざ初心者2人だけの俺らを選んでくれる可能性は低い。
「じゃあ、何か考えがあるの?」
そう畳みかけられるが、俺にも明確な回答はなかった。
パーティーの基本としては、攻撃を担当するアタッカーを2人、回復役のヒーラーが1人、その他に何かしら特殊属性を持った支援役が1人か2人……というのがベーシックなものだと思う。
アタッカーはミドリコに任せるとして、そもそも俺はどのような立ち位置になるのかも問題だ。
アマテラスは馬鹿がつくほどの脳筋アタッカーだったが、それと同じことをしても面白くない。
だからといって、ヒーラーや支援役という きめ
それに加え、俺のレベルは……。
「あれ、あの子どうしたのかな」
考え込む俺の横で、ふとミドリコがフロアの隅を指で示す。
「ん?」
その方向に目を向けて、俺はぎょっとした。
人々が行き交う空間のすみっこにポツンと置かれた段ボール。
その中に、女の子がひとり下を向いて体育座りをしている。
……え、何だあいつ。
その空間だけは何か暗くジメジメした空気が漂い、思わず俺はドン引きした。
いかにも私は訳ありです。構ってください。とでも言いたげな雰囲気。
どことなく自分と同じ陰キャの空気を感じ取ってしまい、おかしい奴には関わらずにおこう……。
「ねえ、君 大丈夫?」
そんな心中などつゆ知らず、ミドリコはその子の元へと駆け行ってしまった。
彼女は陰キャにも優しい陽キャなのだ。
「え?」
自分の前に立ったミドリコを見て、その少女は顔を上げた。
年は10歳くらい。黒い頭巾を被り、よく見ると耳は狼の形をしている。
ケモ度低めの狼獣人アバターのようだ。
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