ギルド②
クダラノの中では現実社会よりも様々なことにチャレンジが出来る。
それは魔法が使えたり、規制が少なかったり、リアルより長く生きられたりするためだ。
何でも出来るというのは、逆に何をして良いのか分からなくなる。
クダラノに来て日は浅いけれど、彼女なりに思うところがあるのだろう。
「これは、俺の印象ってだけなんだけど」
そう前置きして俺はヒロカに話しかけた。
「ヒロカは魔法の研究とか向いてる気がするんだ」
「研究?」
当然そんな聞き覚えのない言葉に不思議そうな顔になる。
「クダラノ内には魔法が存在するだろ? その
そして良い魔法が発明できたらそれを他のプレイヤーへ販売することも可能だ。
クダラノで魔法研究の第一人者はスィーティーであり、彼女がプレイヤーから尊敬を集めるのはランカーとしてよりもその功績が大きい。
スィーティーの発明によりクダラノの魔法の歴史は最低10回は書き変わったと言われる程だ。
ああ見えて意外と……というか かなり偉大な人物だったりするのだ。
「そんなのがあるんだ」
「ヒロカは料理が得意だろ。魔法を作り出すのと共通するとこも多いと思ってさ」
きっかけはヒロカが鍋でビーフシチューを作っている姿が、大釜でよく分からん材料を調合しているスィーティーと重なったからだった。
俺も自分で魔法を開発することはあるが、どうも感覚派というか思いつきや直感本位で、やってみたら何となく出来たというのが大半だ。
だから他のプレイヤーには教えられないし、理論的に解説するなんてもっての外。
調理しているヒロカを横で見ていたら、混ぜたり
それなら魔法生成と相性が良いのではないかと思い、そんな提案をしてみたのだ。
「アタルがそう言うなら、考えてみようかな」
ヒロカは案外素直に頷く。
「あ、それならうちも武器とか防具作るのやりたいな」
そして意外なことに、アカネまでそんなことを言い出した。
「武器?」
「そう。あの武器屋のオヤジにちょっと教えてもらったんだけど、結構面白かったんだよね」
なるほど。言われてみればモノづくりが得意なアカネにはハマる分野かもしれない。
「それなら ここで作業しながらでも出来るし、2人ともいいんじゃない?」
それまで横で話を聞いていたミドリコも嬉しそうに微笑む。
彼女としては自分ひとりだけ外へ出て行ってしまう事を心苦しく思っていたのかもしれない。
「じゃあ確認なんだけど、どっちにしろヒロカとアカネはバトル方面は今まで通りやらないってことでいいか?」
そして、皆の顔を見回し改まって尋ねた俺に、3人は目を見合わせた。
「え、なんで?」
突然こんなことを言われて
「もし2人がパーティーに参加しないなら、他で新しい仲間を探さないといけないからだ」
けれど、それは俺としてはずっと考えていたことだった。
「仲間?」
「このままレベルアップを目的にするなら、新しいエリアに進出することが必須になる。そうすると、俺とミドリコの2人だけじゃ いずれ限界がやってくる」
一つ息をついて俺は説明を始めた。
「エリアのレベルが上がると、当然出てくるモンスターの強さやエリアそのもののギミックも複雑になってくる。ミドリコにいくら戦闘センスがあっても、それだけで進んでいくのは難しい。……って皆が言っていた」
最後は申し訳程度に付け加えたが、それは事実だ。
俺がいた初期の時代とは違い、今はそれぞれ役割を持ったプレイヤー同士が協力しないとエリア攻略はほぼ不可能となっている。
「他を見てると、最低でも4~5人役割の違うプレイヤーを集めてパーティーを組むのが望ましいと思う」
しかし仲間を増やすということは、この4人以外の誰かを引き入れるということ。
それに抵抗がないか、ここで確認しておく必要があったのだ。
「そっか。なら、いいんじゃない?」
だが、予想に反してアカネの返事はあっさりしたものだった。
「え?」
「それがミドリコのためになるなら悩む必要ないでしょ」
ヒロカもミドリコの肩に手を置いて笑いかけている。
さすが陽キャ。俺と違い、人見知りという概念はないらしい。
「ミドリコもそれで大丈夫か?」
「うん。新しい仲間ができるなんて楽しみだね」
その屈託のない笑顔を見返して、俺も頷いた。
「じゃあ、ギルドに行ってみるか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます