ギルド①


 クダラノ内でアバターの死は強制ログアウトを意味する。


だが死んだ時に怪我を負ってたり、またはアバターそのものが消失してしまった場合は、5日間のペナルティが開けた時に元通りの姿になっている。


死の罰則として金を取られるのには、アバターの修理費という側面もあるようだ。


何故、俺がこんな話をするのかといえば。



 「もう、ほんと凄かったんだから」


ヒロカがこの話をするのは、既に3度目だ。


「そうそう。よく分からないうちに、こうパアアッてなってバーンッてなってさ」


向かい側からアカネも話に入ってくるが、何を言っているのかよく分からないのはこちらのほうだ。


 ここは例の世界樹の下の家。


俺がアマテラスとして色々と抜き差しならぬ状況になっているうちに、まだ外見だけだが立派な家屋が出来上がっていた。


大工のじいさんもそうだが、トリアエズの町の皆が代わる代わる手伝に来てくれたらしい。


家の中心は皆が集まれる広間になっていて、中央に置いた大きなダイニングテーブルと椅子が今のところ唯一の家具。


3日ぶりにアタルとなった俺は、こうしてミドリコ、ヒロカ、アカネとその卓を囲んでいたのだが。


「へえ、そんなことがあったのか」

「ああいう時に限っていないって、アタル間が悪いよね」


知らん顔でコーヒーを飲む俺に冷やかにミドリコが言う。


もう何度も聞かされた“ああいう時”というのは、もちろんアマテラスがやらかした あの事件のことだ。


 ヘルハウンドとのファイトマッチの後、言うまでもないがクダラノ内どころか世界中でそれは大騒ぎとなった。


トップランカーが一般のプレイヤーを一方的に大量虐殺するという前代未聞の大事件。


イクリプスのことより、こっちのほうが俺の評判として致命傷になってしまうのではと内心ガクブルだったのだが。


「アマテラスにられるなんて一生の自慢だって、みんな言ってるって」


ケラケラとアカネが笑うように、俺の予想の斜め上ではあったが意外にも一件は炎上することはなかった。


そもそも、あのファイトマッチを勝手に野次馬に来ていたのはプレイヤー達のほう。


それに他人の魔法発動で巻き添えを食らうのは、クダラノ内ではたまにある事でもある。


まして あのエリアに入り込めるのはそこそこのレベルの奴ばかりで、そのへんはまあ自己責任ということで。


……という意見が大変を占めていると、世論調査をしたスィーティーが教えてくれた。


そんな論調に胸をで下したものの、さすがにそれで終わりという訳にもいかない。


クダラノ側が行うアバターの修理は損傷の具合によって取られる金が変わり、アバターそのものが消失となると10万Eも取られる。


ちなみにEはクダラノ内の通貨の単位で、単純に1E=1円くらいの価値だ。


あのレベルのプレイヤーなら払えない奴はいないと思うが、せめてそこは金だけでも補償ほしょうさせてもらうことにした。


運営に問い合わせたところ、俺の烈華日燐でログアウト行きとなったのは約3600人。


1人1人に使い魔を出して色々と手続きやら処理をしていたら、とてもアタルとしてログインする時間などなかったのだ。


 「ミドリコもああいう魔法が使えるようになるの?」


お手製のクッキーをテーブルに並べながら、何気なくヒロカがミドリコに尋ねた。


「無理じゃないかなあ。アマテラスの強さは努力とかでどうこうなる次元じゃないってタイカさんも言ってたし」


頬杖をつきながら答えるミドリコは、ここのところ順調に魔法の修練を積んでいる。


元々剣技が得意な彼女は、そっちもレベルを上げればインティのような卓越した魔法剣士になれることだろう。


タイカさんとは、俺達がレプティリアンを倒した時に攻撃してくれたあの青年魔法使いのことだ。


トリアエズの町で再会して以来、ミドリコの修行にたまにつきあってくれているらしい。


「へえ、やっぱアマテラスってヤバい強い人なんだな」


クッキーをボリボリ食べるアカネはまるで他人事だ。


「ヒロカとアカネは、クダラノ内でやりたいことはないのか?」


レベル上げや魔法取得に忙しく活動しているミドリコと違い、ヒロカとアカネはログインするとすぐにここに来て家を建てたり料理を作ったりしていた。


お陰で帰る家があり、上手い料理が出てきて、庭には綺麗な花が咲いている。


俺としてはとても有難ありがたいが、2人はそれで良いのだろうか。


「いいに決まってるじゃん。他のことやるにしても、まずはこの家が完成してからだな」


ニカっと笑うアカネは分かりやすい。


「私は、せっかくだから何かやってみたい気持ちはあるけど」


逆にヒロカは少し考えるように俺を見る。


「何か?」

「うん。でも、これっていうのがある訳じゃないんだよね」


そんな気持ちはよく分かる。

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