ファイトマッチ④

しかし、俺が彼に対して知っている情報もある。



「あいつ、イクリプスのメンバーだぞ」


それはつい十数分前、ヘルハウンドの来歴らいれきを調べていたシュヴァートが言ったセリフだ。


「は? 間違いないのか?」


当然その存在を蛇蝎だかつのごとく嫌っているキラが不機嫌な声を出す。


「こいつが所属してる連合の主催者や他のメンバーもイクリプスを名乗って問題起こしてる連中ばっかだからな」


つまりは真っ黒ということか。


「そんな奴がランク15まで上がってきちゃう時代かあ」


俺へのファイトマッチ申し込みで有耶無耶うやむやになってしまったケーキを残念そうに片づけながらスィーティーがなげく。


「最近まで全く無名だったプレイヤーだが、この間のトーナメントで初めてランカーになったらしい、が……」


公開されているプロフィールや掲示板の情報を読み上げていたシュヴァートの顔がふいに曇る。


「が?」

「これはネットの噂なんだが、こいつは八百長で勝ち上がったんじゃないかって疑惑がもたれてる」

「どういうこと?」


尋ねたインティに応えるように、シュヴァートはスィーティーの家のカラフルな壁に自分が見ていたサイトの画面を映し出した。


「前回のトーナメントで、このヘルハウンドが最後の2戦で当たったのは共にイクリプスに関係するプレイヤーだった」


第7回競戦トーナメントの最終結果が示されたトーナメント表。


ヘルハウンドの最後の相手はゴッドオブユニバース、その前はインフェルノ……という何とも大層な名前の奴等であった。


「こいつらがイクリプスのメンバーだっていうのは間違いないのね」

「ああ、イクリプスっていうのは そもそも反アマテラスの思想を持ったプレーヤーが連合を組み、更に同盟を結んだ広域の勢力のことだ。このゴッドオブユニバースもインフェルノもそういう連合の構成員だから間違いない」

「でも同じ考えだからって、トーナメントでわざと負ける必要はないだろ?」


そんなキラの言葉に、シュヴァートは壁の画面を切り替えた。


「これを見てくれ。ヘルハウンド、ゴッドオブユニバース、インフェルノのそれぞれの使用魔法分布だ」


俺も目を向けると、そこに現れたのは3人が今回のトーナメントで実際に使った魔法属性の割合がデータとして記録されている。


ヘルハウンドは90%が水属性、ゴッドオブユニバースは闇属性と風属性が40%づつ、インフェルノは火属性が80%。


これから分かることは、ヘルハウンドは水属性を極めたプレイヤーであるということ。


水は、俺が得意とする火属性に唯一強い魔法だ。


「他の2人では相性的にアマテラスに勝てないから、ヘルハウンドに勝ちをゆずったっていうこと?」


スィーティーがにわかには信じられないという顔をするが、確かに普通なら馬鹿げた説だろう。


しかし耳に入ってくるこいつらの行いを聞いていると、そんなこと簡単にやってのけてしまいそうな気もする。


「その可能性は、きっと高いわ」


そして、横から断言したのは意外にもインティであった。


「どうして、そう思うんだ?」


皆が驚く中、尋ねる俺に


「このクダラノの中で、1番強いのは貴方、そして2番目に強いのは私よね?」


逆にそんなことを質問され、答えにきゅうした。


「まあ、ランクではそうだけど」

「けれど私がアマテラスに勝つことは決してあり得ない。それくらい、私達の実力差は大きい」


正面から言いきられ、俺は何も言い返せなくなる。


「それは事実だから構わない。私が言いたのは、2位の私でも太刀打ち出来ない最強ランカーを、それより下のランクの者がどうやって倒そうって考えるかってこと」


そこまで説明されれば、彼女の言いたいことも何となく理解できた。


「つまりは、アマテラスを倒すためだけにイクリプスが示し合わせて協力した、と?」


同じように思ったのか、自分の言葉を噛みしめるようにキラが呟く。


「多少強いだけのプレイヤーではアマテラスに歯が立たないのは向こうも分かってる。だから相性の良い水属性の奴を上に行かせ、彼の力が一番発揮できるエリアで一か八か勝負を挑む。そんなところじゃないか?」


シュヴァートがまとめてくれたここまでの予想は、どこか説得力があった。


俺とて、ここまで自分が敵視されている現状を知れば、イクリプスからの悪意はひしひしと伝わってくる。


「けれど、彼等だって馬鹿じゃない。本気でアマテラスに勝てるとは思ってないと思う」


誰もが無言になってしまった中、静かにインティが言う。


「このファイトマッチ以外に何かたくらみあるってこと?」

「私には そんな気がするの。多分、その目的は……」

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