ファイトマッチ②
「アマテラスの、お袋さん?」
シュヴァートが、まるで知らない言葉のように繰り返す。
俺とその存在が結びつかないとでもいうように。
「ああ、そんで俺がクダラノ最初のプレイヤーって言われてるのも間違いだ」
この際だと思い、そんなことまで自ら告白をした。
「どういうこと?!」
スィーティーが驚愕のあまりかケーキの皿をひっくり返しそうになる。
申し訳ないが、そのまま廃棄になって欲しかった。
「このクダラノを見つけて最初にログインしたのは母さんなんだ。俺はその次にここに来た」
8歳のある日、入院中だった母の病室に見舞いに行った時
「亜汰流、面白いもの見つけたの」
そう言ってノートパソコンの画面で見せてくれたのが、まだ試作段階のクダラノのサイトだった。
いま思えば、よくこんな怪しいゲームに最初にアクセスしようなんて思ったものだ。
とにかく、最初のログインであの開発者と出会った時、俺の隣には母さんがいたのだ。
そして、そこからクダラノの歴史も始まった。
「アマテラスの母さんて」
「その後すぐに亡くなった」
キラに答える俺の声は普段と変わりなかったと思う。
碧子の時もそうだが、周囲から気を遣われてしまうのは嫌だった。
「アマテラスのお母様がクダラノにいた時間は短いけれど、色んなことを残してくれた」
それまで黙っていたインティが、ポツリと口を開く。
母さんと俺の次にこの世界に来た少女。
彼女だけが、俺の他に母さんを知る唯一のプレイヤーなのだ。
「人と人は助け合うこと、ゲームは皆で楽しむこと、誰もが笑顔でいられること」
懐かしむように語るインティの表情は穏やかで、最初に出会った頃と変わらない。
「だから私は、その世界を守りたい」
そんな風に微笑む彼女はやっぱり優しく、美しくて。
俺の心は、
「そんなことがあったのか」
ビールを飲む手を止めたュヴァートが言うように、こんな話を人にするのは初めてだった。
別に隠してた訳でもないが、もしかしたら成り行きとはいえ碧子に話したことで心の踏ん切りがついたのかもしれない。
インティの横顔を眺めながら、そんな感傷にしばし浸っていたのだが。
『ランクNo15ヘルハウンドより、ランクNo1アマテラスにファイトマッチが申し込まれました』
そんなメッセージが、突如クダラノ全土に響き渡ったのだった。
「もう、アタルの奴ログインできないとかマジ何なの」
一方、レベル0エリアの世界樹の下では、アカネ、ヒロカ、ミドリコが大工の老人と共に家作りに精を出していた。
そろそろ土台が完成し、今度は足場を作るのだと老人が教えてくれたところ。
「仕方ないよ、用事があるんだから」
自分も部活が終わってから合流したミドリコが、資材を魔法で浮かせて運びながらフォローするように言う。
今日はアタルが来ないというので、紫石の木杖を家作りの手伝いに借りていた。
「そうそう、男には色々事情があるもんさ。例えば恋人とデートとかな」
中腰で作業していた老人が何の気なしに言うと、横で工具を運んでいたヒロカは派手にそれを足元へと落とした。
「デ、デート?!」
「ないない、あいつに彼女とかいるはずないし」
慌てるヒロカと、笑い飛ばすアカネ。
それを見てミドリコは苦笑している。
『ランクNo15ヘルハウンドより、ランクNo1アマテラスにファイトマッチが申し込まれました』
そんな時。
アラート音と共に、そのアナウンスはなされたのだった。
「え、何これ」
初めての経験である3人は戸惑っていたが、大工の老人は立ち上がり空を見上げる。
「ファイトマッチ、いわゆる決闘だ」
「決闘?」
「プレイヤーが他のプレイヤーに対して1対1のバトルを申し込む。大抵は下のランクの奴が上のランカーに挑む下剋上だな」
その
「皆に知らせるってことは、そんなに大事なことなんですか?」
ヒロカが空を見つめる老人に問う。
「まあ、ちょっとしたお祭り騒ぎみたいなもんだ。勝敗によってはランクが変動する可能性があるからな」
「変動?」
更に不思議そうな顔をするアカネの声に、作業を諦めた老人はゆっくり庭に設置された椅子へと移動した。
「クダラノ内で強さを表す指標はレベルとランクしかない。特に衆人の前で白黒つけるトーナメントで決定したランクが最も重要で、その順位がこの世界での階級といっていい」
「だからアマテラスって人は偉いのね?」
「そう。そしてランクは年に1度の競技トーナメントでしか決まらない」
ミドリコの質問に
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